はやぶさ2の
プロジェクトマネージャーは
なぜ「無駄」を
大切にしたのか?
著者 津田雄一
出版 朝日新聞出版
はやぶさ2のプロジェクトマネジャーである津田雄一さんは本書の他にも『はやぶさ2の宇宙大航海記』や『はやぶさ2 最強ミッションの真実』といったタイトルの書籍を出版しています。
おそらく、編集者の方はそれらの書籍と色分けをするためにあえて『はやぶさ2のプロジェクトマネジャーはなぜ「無駄」を大切にしたのか?』という長ったらしいタイトルをつけたと推察しますが、「無駄」を大切にすることが本書のテーマかと言われると、読み終えた後にそれはちょっと違うなぁという違和感がありました。それでも、このプロジェクトが最新の技術とテクノロジーで多くのシュミレーションを繰り返しながら、完璧に近いミッションを達成したことは疑う余地もありません。
リュウグウ 直径900m
はやぶさ2は6年間にわたる「リュウグウ」の探査によって、9つの世界初を達成しています。
1点目は、小型探査ロボットが小惑星の上で移動探査を行ったこと。
2点目は、3機のロボットが同時に小惑星で活動したこと。はやぶさ2が持って行ったロボットは4機で、そのうち3機が同時に運用された。
3点目から6点目まではリュウグウへの着陸に関するもの。はやぶさ2の天体着陸精度を60センチまで上げたことが3点目で、4点目は小惑星に大きい弾丸を撃ち込んで穴を開けて、人工クレーターを作った上で観測したこと。そしてその穴の地下物質を採取したことが5点目だ。さらに同一天体の2地点に着陸したことが、6点目になります。
7点目は小惑星の周りに3つの人工衛星を飛ばしたこと。8点目は、地球以外の天体からガスを採取して持って帰ったこと。そして最後の9点目は、採取した固体物質を持ち帰ったことです。
日本のこの「はやぶさ2」の計画と並行してアメリカの「NASA」は2016年9月8日に「オサイリス・レックス」を打ち上げています。こちらはリュウグウよりさらに小さな「ベンヌ」に接近し周囲を約62時間で1周する軌道に入り公転軌道に乗った最小の天体となったとなっています。はやぶさ2同様ベンヌ表面から試料を採取し2023年に地球へ試料を届けることになっています。このペンヌは地球に衝突する確率が高い小惑星として知られています。
ベンヌ 直径500m
「月より遠くの天体に行って帰って来る技術を実現できたのは、今のところJAXAのはやぶさと、はやぶさ2だけです。世界中で日本だけが成し得たことです。僕は技術者なのでこの点は強調したいですね。今後は米国も中国も実施する予定がありますが、世界で初めて実現できたことは誇りだと思います」これは津田さんの言葉です。なにしろ「オサイリス・レックス」は約900億円の予算が投入されていますが、日本のはやぶさ2はその1/3の300億円という低予算でオペレーションされました。
この本は、その限られた予算の中で如何に最大の効果を求めていくかというマネジメントの側面を中心に描かれています。いわく、チームをまとめるためには、
1.組織の壁を取り払う
2.批判勢力を取り込む
3.周到な準備
という3要素が不可欠だったことが語られています。
はやぶさ2のチームは旧文部省の宇宙科学研究所が母体で、惑星探査などを研究するメンバーが中心でした。有人宇宙飛行を担う筑波宇宙センターや、航空機の開発を行っていた調布航空宇宙センターなど、ほかの部署とは壁があり、ノウハウの共有が限られていました。そこで取り組んだのが、「壁を取り払う」ことでした。はやぶさ2のチームの主要ポストを2倍に増設。新設したポストに、筑波宇宙センターなどの人材を積極的に呼び寄せています。
総勢600人からなる、はやぶさ2のプロジェクト。実は、外部の研究者や技術者が多く参加し、日本の総力を挙げたチーム編成が、成功のカギの1つとなっていました。その1人、名古屋大学の渡邊誠一郎教授。惑星科学の第一人者です。この渡邊さんは、外部から批判も含めて、プロジェクトに対して客観的な立場で意見を述べていました。その中で、従来はJAXA人材が歴任してきた科学者のチームのリーダーに招いたのです。渡邊さんがチームに入ったことをきっかけに、外部の科学者たちが次々と参画するようになったのです。
技術者たちも趣味レーションを繰り返し、着陸精度の向上に取り組んだのです。はやぶさ2の当初の性能は、狙った場所から50メートルの範囲内に着陸する精度だったのですが、それを1メートル以内に精度を上げようと取り組み、その結果、世界初となる60センチの精度が達成できたのです。
はやぶさ2の最大の目的は「リュウグウ」の試料の持ち帰りでした。そのはやぶさ2が2回のタッチダウンを行なったことはまさに無駄のように捉える向きもありました。しかし、余裕の燃料と装備、そして、繰り返しのシュミレーションで成功確率が飛躍的に高い精度になったことで2回目のタッチダウンが可能となり、予定していた採取試料は格段に増え5gを回収しています。
はやぶさ2は地球に試料を持ち帰りましたが、それで使命が終わったわけではありません。はやぶさ2は燃料が半分以上残っていたので、 これを使ってもっと面白いことができると考えられています。この先はまさに、純粋なチャレンジです。まず、2026年7月に小惑星2001 CC21にフライバイします。 そばを通り過ぎて観測するわけですが、もともとそのような前提で設計していない探査機で観測するわけですから、 運用には相当な工夫が必要です。
さらに2031年には1998 KY26という小惑星へのランデブーを試みます。 わずか30メートルほどの天体ですが、なんと10分で自転しています。
なんでこんなに速い自転速度の小惑星が存在できるのか、 ひょっとしたら一枚岩なのではないか、興味が尽きません。
はやぶさ2のチャレンジはまだまた続ききます。これも無駄がもたらした最大の楽しみなのでしょう。
P.S.
今日のネットニュースにこんな記事が掲載されました。
太陽系最初期の物質か 「りゅうぐう」試料の分析 東北大など
探査機「はやぶさ2」が小惑星「りゅうぐう」から持ち帰った試料を分析していた東北大などの研究チームは、約46億年前の太陽系最初期にできたとみられる物質が含まれていたと発表した。太陽近くでできた後、遠く離れたりゅうぐう母天体まで運ばれたと推定されるという。論文は16日付の英科学誌ネイチャー・コミュニケーションズに掲載された。 これまでの分析で、試料には小惑星に多く含まれる物質「コンドリュール」に似た組成の粒子と、カルシウムやアルミニウムを多く含む粒子の2種類が含まれていることが判明。いずれも0.03ミリほどで、1000度以上の高温環境で形成されたとみられていた。 研究チームは粒子の化学組成や年代などを、隕石(いんせき)に含まれている粒子と比較するなどして分析。この結果、2種類とも太陽近くで形成されたものが含まれ、カルシウムを含む粒子は太陽系最初期に形成されたと考えられるという。 どちらも試料にはごくわずかしか含まれていないため、極めて低温のりゅうぐう母天体には存在しなかったと推定。原始太陽系星雲内で形成され、ガスの乱流などで母天体に運ばれた可能性があるとしている。 東北大大学院の中嶋大輔講師は「今後は原始太陽系の中で何が起きていたのかを明らかにしていきたい」と話した。 配信