作家刑事毒島
著者:中山七里
出版:幻冬舎
殺人事件解決のアドバイスを仰ごうと神保町の書斎を訪れた刑事・明日香を迎えたのは、流行作家の毒島。捜査過程で浮かび上がってきたのは、巨匠病にかかった新人作家、手段を選ばずヒット作を連発する編集者、ストーカーまがいの熱狂的な読者。ついには毒島本人が容疑者に!?出版業界激震必至の本格ミステリー!---データベース---
先日読了した「中山七転八倒」がちょうどこの作品の出版のスケジュールとかみ合っていて、その内容のリアルさにとても興味を持っていたので早速読んでみました。もともとは、幻冬舎発行の月刊PR誌『PONTOON』で2015年〈平成27年〉11月号から2016年〈平成28年〉8月号まで連載されたものを単行本化したものです。中山氏にしては珍しい短編連作の形式をとっています。作品の章立てです。
目次
1.ワナビの心理試験
2.編集者は偏執者
3.賞を獲ってはみたものの
4.愛瀆者
5.原作とドラマの間には深くて暗い川がある
作家が刑事という設定なので、事件もその周辺のシチュエーションに限定されます。ただ、それだけに出版業界あるあるの話題がてんこ盛りで、出版社の主催する新人賞にまつわるエピソードなどはブラックジョークを交えて鋭い舌鋒で切り込んでいます。単行本の帯には、
「小説家志望者・新人作家、閲覧禁止」
の文字が踊っています。まあ、よく読んでいけばこの主人公作者の中山七里の影武者のような存在であることが読んで取れます。この小説を読むなら、先の「中山七転八倒」と併読することをお勧めします。
もともと刑事であった毒島(ぶすじまと読みます)が執筆の片手間に事件を解決していきます。その刑事技能指導者である毒島は、犬養隼人シリーズにも繋がる人物で、犬養隼人の新人時代のトレーナー役も努めていたという異色の経歴を持っています。そんなことで、中山氏の作品は他のシリーズのキャラが他の作品にも登場したりするので、その作品を読んでいると2倍の楽しさが味わえます。ここで登場する犬飼刑事は、これまで読んだ中では「合唱 岬洋介の帰還」や「おわかれはモーツァルト」にも登場しています。
五編はそれぞれ、
①文芸新人賞に応募した際、一次選考の下読み作家にコケにされた怨みからの殺人事件
②口の悪い編集者と新人賞取ったものの2作目が書けない作家達
③御大に説教されてプライドズタボロの新人賞後は目が出ない作家達
④トークショーに集まったネット書評家&ストーカー&勘違い女。でも真犯人は?
⑤ドラマと原作が余りにかけ離れての殺人事件。
ミステリーとしてはそれほど深い洞察の上に成り立っているものではありませんが、事件はほぼ出版業界関係に限られています。小説家志望、新人、編集者、自称評論家などなど。あとはドラマ化関係でテレビ局も。要するにギョーカイあるあるでまとめられています。実名で登場するのは幻冬社ぐらいですが、これがあるからこそ内容にリアリティがあります。事件解決のパターンはどれも似ていますが、最後の事件だけはちょっと一捻りのある展開で楽しめました。