のぶカンタービレ!
全盲で生まれた息子・伸行がプロのピアニストになるまで
著者:辻󠄀井いつ子
出版:アスコム
感動のベストセラー!<第2弾>辻󠄀井伸行13歳~19歳までの物語。第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝した
辻󠄀井伸行の母が綴る、感動秘話。「あきらめなければ、神様は微笑んでくれるんです」---データベース---
中山七里氏の「さよならドビュッシー」シリーズの「いつまでもショパン」や「おわかれはモーツァルト」を読んでいると全盲のピアニストの榊場龍平が活躍します。しかし、これはどうしても話題のピアニスト辻󠄀井伸行氏とダブってしまいます。2005年には当の辻󠄀井伸行氏はまさにこの小説の舞台となったショパンコンクールに参戦していました。事実は小説の第2位とは違いセミファイナルで敗退という結果で終わっています。時間設定的に5年のズレはありますが、それを踏まえてのリスペクト作品ということはできます。無冠に終わったという点では岬洋介とダブりますが、実際のショパンコンクールではショパン協会から「ポーランド批評家賞」を受賞しています。
余談ですが、中山七里氏の作品ではそのディティールまでこの本に描かれる背景がそのまま使われています。まさにオマージュ作品ということができます。まあ、個人的にはそれもあってこの本を入手したとも言えます。
データベースには第2弾とありますが、前段は「今日の風、何色?」という本です。共に辻井の母親のいつ子氏が著したものです。この本の章立てです。
目次
プロローグ
第1章 ショパンに、聴いてもらいたくて(僕、ショパン・コンクールに出たい!/強運で引き当てた「ソナタ第3番」 ほか)
第2章 プロへの階段(コンクール中なのに踊っちゃった/二度とコンクールには出たくない! ほか)
第3章 のぶカンタービレ!(「人を幸せにする演奏ですね」/弾いていることが楽しくて仕方がない ほか)
第4章 ショパン・コンクール・セミファイナル(やはり無理だったか…/奇跡を呼ぶか?伸りんダンス ほか)
第5章 巣立ち(近づく巣立ちの時/お寿司をお腹一杯食べられるように
エピローグ
辻井氏については幼少の頃から注目されていたこともあり、テレ朝が追っ掛け取材していたことも知られています。そのため、帯では「ニュースステーション」や「題名のない音楽会」のことが大きく踊っています。大きく注目されたのは、2009年の第13回ヴァン・クライバーン国際ピアノコンクールで優勝したことで、こぞってマスコミに取り上げられたことからでしょう。しかし、ここではそのことには触れられていません。ショパンコンクールの出場し、エスベックスからCDがリリースされたところまでが描かれています。
この本は辻井氏の母親の子育て日記の体裁をとっています。もともと母親のいつ子さんは元アナウンサー、父親は産婦人科医ということもあり、金銭的には恵まれた環境にあったと言ってもいいでしょう。そこに生まれつきの絶対音感とピアノの演奏を幼少から耳コピで演奏できるという天才性はうまく才能を伸ばすにはプラスに作用しています。
そして、彼を支える人脈の広さ。クセのないピアニズムをサポートしたのは川上昌裕夫妻の献身があってのことでしょう。普通は出かけて行ってレッスンですが、特殊事情とはいえ通いでのレッスンです。ショパンコンクールの時は自ら講師をしていた東京音大の講義を休講にして1ヶ月ワルシャワでサポートしています。この間の様子は小生もいくつかのテレビ番組で視聴していました。指揮者の佐渡裕氏との出会い、ピアノではやはりショパンコンクールに入賞している横山幸雄への師事、作曲家の三枝成彰氏etc。詳しい活躍はwikiの記事に詳しいので割愛しますが、そういう支えがあって一段一段階段を着実に登っています。
ということで、ちょっと変わった切り口でこの本を取り上げて見ました。中山七里氏の「いつまでもショパン」や「おわかれはモーツァルト」の副読本としてこの本を読むのもありかなと思います。