トーマス・ビーチャムのハイドン | geezenstacの森

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THE GREAT CONDUCTORS 3

トーマス・ビーチャムのハイドン

 

 

曲目/ハイドン

交響曲第100番ト長調 「軍隊」

I. Adagio. Allegro    6:30

II. Allegretto    4:58

III. Menuett/Minuet (Moderato). Trio    5:00

IV. Finale: Presto    4:48

 

録音1958/05/11,16、Salle Wagram, Paris

  1958/12/11,16*、1959/05/08 No.1 Studio, Abbey Road*

 

交響曲第101番ニ長調「時計」

I. Adagio. Presto    6:56

II. Andante    8:06

III. Menuett/Minuet (Allegretto). Trio    8:22

IV. Finale: Vivace    4:54

 

録音1958/05/12,16、Salle Wagram, Paris

  1958/12/11,16,18*、1959/05/03,08 No.1 Studio, Abbey Road*

 

交響曲第103番変ホ長調「太鼓連打」*

I. Adagio. Allegro con spirito    8:48

II. Andante    10:57

III. Menuett/Minuet. Trio    4:53

IV. Finale: Allegro    5:29

 

録音1958/05/09,16、Salle Wagram, Paris

  1958/12/16,18*、1959/05/04,08 No.1 Studio, Abbey Road*

 

指揮/トーマス・ビーチャム

演奏/ロイヤル・フィルハーモニー管弦楽団

 

P:ヴィクター・オロフ、ペーター・アンドリュー*

E:ポール・ヴァバスール、ネヴィル・ボイリング*

 

intense 600237-3

 

 

 このCDはmenbranから発売された「The Great Conductors」という10枚組のボックスセットに収録されているものの3枚目です。そして、このカップリングのCDはEMIやワーナーからは発売されていないようです。ビーチャムはハイドンのザロモンセットを録音していますが、ちょうどモノラルとステレオの端境期で、かろうじて99番から104番まではステレオで残しています。

 

 それにしても不思議な録音です。100番に関してはデータ上は1958年5月、サレ・ワグラム(パリ)での収録と、1958年7月&1959年5月、アビーロード(ロンドン)録音の表記があります。ビーチャムはザロモンセットの全曲を録音していますが、93番から98番までは同じパリ収録なんですがモノラルです。で、1958年の録音?になるこちらはステレオで発売されています。

 

 ここからは憶測なんですが、パリでの収録はもちろんパテ・マルコにの主導で行われたのでしょう。EMI系の中でこのフランスだけはステレオに懐疑的でモノラルでの収録にこだわったのでしょう。しかし、イギリスHMVはすでにカラヤン/フィルハーモニアでステレオ収録を始めていました。それでイギリスに帰国したビーチャムは再度12月にステレオでの収録に踏み切ったのではないでしょうか。それでないと、違う会場でのセッションでは楽器のバランスや温情の変化があって一聴しただけで音の違いがわかります。昔は録音データは詳しくは表記していなかったはずで、当初はパリ収録のモノラルで発売され、のちにステレオマスターで再発されたのではないでしょうか。ここでは取り上げませんが、交響曲第94番は以前からモノラルでしか発売されていませんがデータ上では1958年4月ロンドン収録が残っています。

 

 つまりは物とステレオの2つのマスターが存在するということなんでしょう。で、メンブランの復刻CDはステレオというわけです。

 

 サー・トマス・ビーチャムはビーチャム製薬(現在はグラクソ・スミスクライン)という大富豪の家に生まれ、音楽的才能にも恵まれて若いときから私財を投じてオペラ・カンパニーを設立、強い使命感をもって数多くのオペラをイギリスの聴衆に紹介し、さらにいくつものオーケストラをつくり、コンサートものでも膨大なレパートリーを聴衆に届ける重要な役割を果たしていました。


 道楽で指揮者になったようなものですが、その常に生き生きとした演奏はビーチャムならではのものですが、これには、彼がリハーサルの達人で、楽員を常に楽しませて、やる気を出させ、集中力を発揮させる術に長けていたという背景があるものと思われます。

 

 

 レコード時代は注目もしなかった録音ですが、CDで聞く何処と無くこじんまりとまとまりながら、音楽を楽しんでいる様が目の前に広がります。どこをとっても退屈さとは無縁の旺盛な活力が感じられます。

 

 

 しかし、よく聴くとビ―チャムは楽譜をメンバーに渡す段階で、恐らく相当な書き込みをしていると見られ、随所でデュナーミク、スラーの改変を大胆に行っています。アゴ―ギグも多用しますが、こちらはフレーズの切れ目や楽章末におけるやや儀式張ったリタルダンド、フォルテで大きく歌わせる際にテンポを遅めるなど、かなり一定の規則内で行われているようです。それらの解釈の中には無用と思える所作もありますが、ビ―チャムの場合、何故かその事で作品自体の品格が損われることはありません。いつも大きな眼で全体を捉えている感じがします。

 

 

 ハイドンはイギリス訪問で財をなし、晩年はウィーンに豪邸を建て優雅な余生を送っていますが、自分たちがハイドンを交響曲の父に育て上げたという気概をイギリス人は持っているのでしょうか、ビーチャムはひたすら優雅に、上品にハイドンをまとめています。BGMでも聴くかのようなハイドンですが、たまにはこういうハイドンも良い

 

 

 

 

ものです。