中山七転八倒 | geezenstacの森

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中山七転八倒

 

著者:中山七里

出版:幻冬社 幻冬社文庫

 

 

 雑誌連載が10本に減り大いに危機感を抱き、プロットが浮かばずブランデーをがぶ飲み。原稿の締め切り直前、設定していたトリックが使えないことが判明。栄養ドリンクの三種混合を一気飲みし、徹夜で考え抜く―。どんでん返しの帝王がプロットの立て方や原稿の進め方、編集者とのやりとりを赤裸々に告白。本音炸裂、非難囂々の爆笑エッセイ!---タベース---

 

 文庫本でありながら600ページを超えるボリュームはそうそうあるものではありません。しかも、小説ではなく日記という名のエッセイなんです。そう、これは2016年1月7日〜2017年5月31日の間の著者の日記で、作家になって7年めの著者の日々の著作活動の記録でもあります。

 

 2009年、48歳で小説家デビューですから遅咲きでしょう。小生の好きだった宇江佐真理さんも46歳で作家デビューをしていますが、発表される作品は年輪を重ねただけある味のある作品で心に残りました。その例に漏れず、中山七里氏も毎年膨大な量の作品を発表しています。市のスタイルは独自で、三日かけてテーマ、トリック、ストーリー、キャラクターの順でプロットを固めた後、全体を4〜6章に分けて頭の中で原稿を書いていくというスタイルをとっています。まさにパソコン世代の小説家と言ってよく、頭の中にハードディスクがあってその中のメモリに作品をストックしているので、あとはパソコンに向かってデータを文字化するだけで事足りるようです。しかも、同時に毎月10本ほどの作品を同時に作品として発表しているのですから、パーテーション分けもきっちりしているのでしょう。また、自分の書きたいものを書いたことは一度もなく、出版社のリクエストに応じて自在に作品を書くという能力は、これは幼少の頃から映画を愛し頭の中に感ショゥした映画の情報をインプットしているからこそ、多彩な内容で作品化をすることができるのでしょう。ベースは推理小説ですが、この体でいくとこの先時代小説にも触手を伸ばすのではないでしょうか。

 

 1日400時詰め原稿用紙25枚、月産600枚超、年4冊の新刊を出すバイタリティで、自称「一人ブラック企業」と化しています。それでも、2020年には12ヶ月連続刊行とか凄すぎる記録を打ち立てています。追い詰められても映画愛は無半端ではなく、締め切りに追い詰められても気分転換に映画館に足蹴く通うという日々が綴られています。この掲載期間中にも色々な作品を鑑賞しに劇場に出かけていますが、中でも「シン・ゴジラ」と「この世界の片隅に」には何度も足を運び、その度に会う人に映画を熱く語っています。まあ、後者はほとんどマスコミには取り上げられませんでしたが、2016年のキネ旬の日本映画のベスト1に選ばれていますし、第2位は「シン・ゴジラ」です。つまりは映画の審美眼もピカイチなんですなぁ。

 

 こんな形で、本作は普段の執筆活動から一般見識に至るまで、その人となりを赤裸々に綴る日記風エッセイになっています。

多作で知られる中山七里氏は、エナジードリンクとアルコールを飲み、寝落ちしながらそれでも来た仕事は受けてしまうという、信じられないほどエネルギッシュな作家生活です。しかし、この本の中で、氏は片目がほとんど見えないことを告白していますし、虫歯も大量に抱えています。天は岬洋介のように二物を与えないのですなぁ。

 

 中山さん、くれぐれもお体を大切に。