合唱 岬洋介の帰還 | geezenstacの森

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合唱 岬洋介の帰還

 

著者:中山七里
出版:宝島社

 

 

 幼稚園で幼児らを惨殺した直後、自らに覚醒剤を注射した“平成最悪の凶悪犯”仙街不比等。彼の担当検事になった天生は、刑法第39条によって仙街に無罪判決が下ることを恐れ、検事調べで仙街の殺意が立証できないかと苦慮する。しかし、取り調べ中に突如意識を失ってしまい、目を覚ましたとき、目の前には仙街の銃殺死体があった。指紋や硝煙反応が検出され、身に覚えのない殺害容疑で逮捕されてしまう天生。そんな彼を救うため、あの男が帰還する―!!‥・データベース‥・

 

 この本が単行本として発売された当時は、デビュー10周年ということで、毎月新作が発刊されていて、この作品はその4冊目に当たっていました。そして、時は2016年で、ショパンコンクールからは6年の歳月が流れています。設定ではコンクール優勝以来日本には帰国せず、世界各国で演奏会を開催しているという流れになっています。そして、司法修習生時代にライバルとして知り合った天生高春の窮地を救うために、コンサートをキャンセルしてブタペストから駆けつけるのです。

 

 今作に至っては全ての作品の集大成と言う位置づけなのか、これまでのシリーズの主役たちが惜しみもなく登場します。中山七里作品の主人公達がわんさか出てきては活躍します。渡瀬刑事、古手川刑事、犬養刑事、氏家京太郎、御子柴弁護士、光崎教授、キャシー助教授、真琴先生。単に登場するだけではなく皆しっかり活躍しています。おまけに有働さゆりまで岬と繋がりがあったことが語られます。まさにオールスター出演で「合唱」なのでしょう。ただ、個人的には作品の中で登場するのは第1楽章だけで音楽ミステリーとしてはちょっと物足りないですなぁ。そうは言っても、ファンには堪らない1冊ではあります。

 

 2016年が舞台ということで、平成最悪の凶悪犯、仙街不比等は覚醒剤の常習者で、幼稚園に侵入して、教諭2人、園児3人を殺し逃走します。まず渡瀬&古手川ペアが登場し、閉鎖されたコンビニのバックヤードで犯人を逮捕します。しかし、仙街不比等は覚醒剤を使用してラリっています。刑法39条の適用:「犯行時、犯人が心神耗弱もしくは心神喪失の場合は罪に問わないということ」を狙ったのでしょう。

 

 憲法第39条の適用を心配しつつも、舞台は検察へ。仙街不比等を検事の執務室で調べていたのは岬と同期の天生高春検事です。正義感あふれ、上昇志向が強い検事です。しかし、取り調べ中に眠気に襲われ、そして気がついた時には、仙街を射殺していました。検事が、被疑者を殺害するという前代未聞の事件。検察事務官宇賀麻沙美が退席して、二人しかいない密室殺人、拳銃には天生高春の指紋がつき、スーツの袖からは硝煙反応が検出されます。また、仙街不比等の死体解剖によって、トカレフによって殺されたことは明らかです。


 東京高裁の岬次席検事が、総指揮官として、天生高春検事を取り調べ、裁判にかけることになります。岬洋介の父親ですな。

 

 天生高春の同期修習生の友人としてピアニスト岬洋介が、ブタペストからドバイで乗り換えて18時間かけて、東京に戻ります。そして、その足で天生と接見し弁護士が決まっていないことを知ると、岬洋介は弁護士を御子柴礼司に頼むのだした。この御子柴には岬次席検事は、裁判でに2回負けています。岬次席検事にとってはいわゆる天敵ですが、岬洋介の頼みに着手金一千万円で天生高春の弁護を引き受けます。岬洋介は、法曹の道に行くのか、ピアニストになるのかを考えているときに、天生高春にピアニストになることに背中を押してもらった友人だったのです。


 さらに、弁護を頼むだけでなく、自ら仙街不比等を逮捕した渡瀬刑事、古手川刑事に会いに行きます。そして、引き取り手のない仙街不比等の死体を確認します。そして、その死体解剖を、弁護側としてさらに正確にできる医師に再度依頼します。また、硝煙反応の出たスーツやトカレフを鑑定研究所に持ち込み再分析してもらいます。

 

 裁判が始まり、御子柴が弁護に当たりますが、第1回の公判をおえて、裁判所を出たところで、御子柴礼司はヤクザに撃たれてしまいます。一命は取りとめますが、弁護士として、出廷が困難になってしまいます。すると、「刑事訴訟法第31条第2項 一定の場合においては弁護士以外の者を弁護人に選任することができる」という条項で、その代理に元司法修習生の岬洋介が立つことになります。まさに親子対決ですな。


 そして、次々と新証拠を提出して鮮やかな手口で天生の無実を立証していきます。

 

 サスペンスとしての密室殺人は、だいたいその落とし所はわかってしまいますが、全く無関係と思われた幼稚園の襲撃事件が、実はそれ以前の事件とつながっていたことを証明する手腕は見事です。それ以前に世界的ピアニストが法廷で弁護士を務めるという展開には快哉です。