さよならドビュッシー
前奏曲(プレリュード)
著者/中山七里
出版/宝島社
「さよならドビュッシー」の玄太郎おじいちゃんが主人公になって大活躍!脳梗塞で倒れ、「要介護」認定を受けたあとも車椅子で精力的に会社を切り盛りする玄太郎。ある日、彼の手掛けた物件から、死体が発見される。完全密室での殺人。警察が頼りにならないと感じた玄太郎は、介護者のみち子を巻き込んで犯人探しに乗り出す…「要介護探偵の冒険」など、5つの難事件に挑む連作短編ミステリー。---データベース---
脳梗塞で倒れ「要介護」認定を受けた後も車椅子で精力的に会社を切り盛りする玄太郎。ある日、彼の手掛けた物件から死体が発見され…。「さよならドビュッシー」の玄太郎おじいちゃんが5つの難事件に挑む連作短編ミステリー。〔「要介護探偵の事件簿」(2011年刊)の改題,加筆修正〕
25万部突破『さよならドビュッシー』の前日譚という位置付けです。これまで読んだ作品で言うと、
1.「どこかでベートーヴェン」2000年
2.「さよならドビュッシー 前奏曲」2008年
3.「さよならドビュッシー」2008年
4.「おやすみラフマニノフ」2008年
5.「いつまでもショパン」2010年
という位置付けになります。従来の岬洋介のシリーズは全て長編でしたが。ここでは短編5作品が雌雄録されています。この本の章立てです。
目次
1.要介護探偵の冒険(別冊宝島1711『『このミステリーがすごい!』大賞STORIES』 2010年11月)
2.要介護探偵の生還(書き下ろし)
3.要介護探偵の快走(『このミステリーがすごい! 2011年版』2010年12月)
4.要介護探偵の四つの署名(書き下ろし)
5.要介護探偵最後の挨拶(書き下ろし)
作品としては、単行本で発売された「要介護探偵の事件簿」(2011年刊)を改題,加筆修正したものになります。内容的には「さよならドビュッシー」のスピンアウト作品といえますが、最後の「要介護探偵最後の挨拶」のエピソードは設定としては「さよならドビュッシー」の数時間前の出来事であり、主人公となる岬洋介が唯一登場し、玄太郎に変わって事件を解決しています。そういう世界観で、シリーズの統一を図っていますから、侮れない一冊になっています。唯一シリーズとの違いは、ほぼ音楽が登場しないということです。ただ、最後のエピソードではカルロス・クライバーの演奏するベートーヴェンの交響曲第7番が登場します。
クラシック通なら知っていることですが、この演奏はビデオ収録されましたが世紀のルートでCD化やレコードとして発売されたことがありません。その演奏がここでは海賊盤レコードとして登場し、殺人事件の道具として使われているわけです。そのビデオ収録された演奏はこちらです。
国民党愛知県連代表の金丸公望が青酸カリでレコードを再生中にリクライニング・チェアの上で悶絶死するという事件が発生します。このトリックはレコードに興味がない玄太郎ではさすがに手が出ません。そこで、岬洋介が登場するわけです。レコード時代を知っている人なら、こんなトリックがあるのか!!とびっくりする仕掛けです。
さて、第1話は小手調べ的な事件で玄太郎おじいちゃん&介護士・みち子さんコンビが鮮やかに事件を解決していきます。源太郎かの会社が初めて立てたマンションの地下駐車場の柱がもろくも崩れます。その現場で、玄太郎はコンクリート片を食べると言う荒技を披露するのですが、これが解決の糸口になります。このエピソードの中で、後に登場する小ネタがさりげなく挿入されています。
第2話は、源太郎が脳梗塞で半身不随になる様子とそこからの復活が描かれます。足だけではなく手先も不自由、ましてや喋ることもできない状態からの賢明なリハビリの様子が事細かく描かれていきます。そして、そのリハビリステーションでも事件の匂いを嗅ぎつけ殺人事件を未然に防ぎます。さすが海軍に在籍した戦争経験者です。
第3話はこんなことは現実には難しいわなと思わざるを得ないエピソードで、無理やり事件解決にもっていっているような流れです。
第4歩は痛快です。銀行にお金をおろしに行く先で銀行強盗事件に巻き込まれます。この銀行昔の東海銀行がモデルであることは読んでいてすぐにわかります。ただ、ここでの犯人たちとのやりとりや、現金を強奪するのではなく地下金庫から金塊を盗み出すという手口は、なかなか考えられています。昔は金本位制でしたからねぇ。そして、最後のどんでん返しに玄太郎の愛情を感じます。タイトルの4つの署名はそのことを指しています。で、このエピソードが第1話にリンクしています。
「さよならドビュッシー」を読んだ人なら絶対にハマる一冊です。