いつまでもショパン | geezenstacの森

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いつまでもショパン

 

著者/中山七里

出版/宝島社 宝島文庫

 

 

 難聴を患いながらも、ショパン・コンクールに出場するため、ポーランドに向かったピアニスト・岬洋介。しかし、コンクール会場で刑事が何者かに殺害され、遺体の手の指十本がすべて切り取られるという奇怪な事件に遭遇する。さらには会場周辺でテロが頻発し、世界的テロリスト・通称“ピアニスト”がワルシャワに潜伏しているという情報を得る。岬は、鋭い洞察力で殺害現場を検証していく!---データベース---

 

 この正月は中山七里氏の本を集中的に読んでいます。中でも、この岬洋介の登場するシリーズは一応時系列的に読んでいます。時代的には

「どこかでベートーヴェン」2000年

「さよならドビュッシー」2008年

「おやすみラフマニノフ」2008年

そして、この「いつまでもショパン」は2010年となります。出汁かにこの年は第16回のショパンコンクールが開催されています。もちろん小説ですから、登場する人物は全く違いますが、冒頭で登場するプレリュードて描かれる2010年の事件は事実わ扱っています。当時の日経の記事です。

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{{{ポーランドのレフ・カチンスキ大統領が搭乗したワルシャワ発の旅客機ツポレフ154型機が10日、ロシア西部のスモレンスクで墜落した。ロシア政府などの情報によると大統領を含む乗客全員が死亡したという。

 

 大統領は第2次大戦中にポーランド軍将校ら捕虜約2万人が旧ソ連の秘密警察に虐殺された「カチンの森」事件の追悼式典に夫人とともに出席する予定だったという。現職国家元首が航空機事故で死亡するのは異例。

 

 旅客機は濃霧の中、スモレンスク空港に着陸しようとしたが、滑走路の手前で墜落。着陸前に樹木に接触した可能性がある。テロなどの情報は今のところない。ロシア非常事態省によると同機には96人が搭乗。スクシュペク中央銀行総裁、シュマイジンスキ元国防相らもいた。

 

 事故を受け、日本の鳩山由紀夫首相は同日、ポーランドのトゥスク首相らに弔意を伝えるメッセージを出した。ロシアのメドベージェフ大統領とプーチン首相も哀悼の意を表明した。

カチンスキ氏はワルシャワ市長などを経て2005年に大統領に就任。欧州連合(EU)の政策が独仏など大国主導で決まることに懸念を表明した論客だった。双子の兄のヤロスワフ氏は前首相。}}}

 

 そうこの小説でも実際の事件を取り入れ、それがこの小説のショパンコンクールのベースの事件とリンクしているのです。コロナで2020年に開催予定のコンクールは2021年に延期され、さらにこの大会で日本人の反田恭平が2位、小林愛実が4位に入賞しています。そして、二人は今年結婚しましたからこんな嬉しいことはありませんなぁ。

 

 この本の章立てです。

 

目次

Preludio プレリュード
Molto dolente モルト ドレンテ ~きわめて沈鬱に~
Senza tempo センツァ テンポ ~厳格に定めず 自由に~
Con fuoco animoso コンフォーコ アニモーソ ~熱烈に 勇敢に~
Appassionato dramatic アッパシオナート ドラマティック ~熱く 迫力をもって~

 

 ストーリとしては大きく二つの部分で構成されています。
コンクール会場で起きた、指が10本とも切り取られてる殺害事件。さらに頻発する爆弾テロ。そのテロには「ピアニスト」と呼ばれるテロリストが絡んでいます。テロリストは誰なのかという謎解きです。

 一方で、日本人の岬洋介と榊葉隆平も出場しているショパンコンクールのドキュメントストーリーです。ここで描かれる榊葉はどう見ても盲目のピアニストでずんぐりむっくりしているということでは辻井伸行氏をイメージしていると思って間違いないでしょう。


 そして、優勝候補の一人であるヤン・ステファンス。そのヤンの成長の物語がショパンコンクールで描かれます。父親との確執がありながら、予選から決勝の中、ほかの出場者の演奏を聴きながら、本当の自分のショパン・演奏を見つけていきます。じっさいこの第16回のショパンコンクールではロシア人ピアニストのユリアンナ・アヴデーエワが優勝しています。今年2月には全国各地でリサイタルが開催されます。


 ここでの優勝はポーランド人のヤン・ステファンスが射止めます。岬は例によって、本戦で突発性難聴が再発して曲が弾けなくなります。しかし、協奏曲は辞めても一人静かにノクターンを演奏します。この岬のノクターン、岬は爆弾テロで亡くなったマリーのためにこの曲を演奏するのです。それが同時にパキスタンのタリバンに包囲されていた人質を救う戦場で流れるのです。音楽が戦争をするアメリカ兵やタリバンの兵士を癒すのです。この音楽描写がすごい!! 本来ならショパンコンクールの優勝者をたたえるシーンがクライマックスなんでしょうが、ここは戦争とリンクした岬のノクターン第2番がピークになています。

 

 

 ありえないと思いながらも、今までの伏線ふくめて、岬が奏でたその瞬間のノクターンにはそれだけの強さがあるのだろうと思わずにはいられません。