おやすみラフマニノフ | geezenstacの森

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おやすみラフマニノフ

 

著者/中山七里

出版/宝島社 宝島文庫

 

 

 第一ヴァイオリンの主席奏者である音大生の晶は初音とともに秋の演奏会を控え、プロへの切符をつかむために練習に励んでいた。しかし完全密室で保管される、時価2億円のチェロ、ストラディバリウスが盗まれた。彼らの身にも不可解な事件が次々と起こり…。ラフマニノフの名曲とともに明かされる驚愕の真実!美しい音楽描写と緻密なトリックが奇跡的に融合した人気の音楽ミステリー。---データベース---

 

 前作「さよならドビュッシー」の続きといった感じのストーリーになっています。ということで岬洋介は名古屋は栄にある愛知音楽大学の臨時講師という立場でこの物語に携わっています。でもって、この物語はヴァイオリニストを目指す城戸晶を主人公に据えて、彼の目線で進んでいきます。この晶の名前も大きな意味がありますが、登場人物には学科長の須垣谷教授が登場します。名古屋のスガキヤですね。パロっていますが、中には2008年8月の豪雨についての記述も登場して、リアルタイムの物語にもなっています。

 

 あらすじとしてはこんなものです。

 音大生の城戸晶は実家からの仕送りが途絶え、練習時間をアルバイトに充てても学費を払いきれず、学生課からも請求書が届く有り様だった。そんな中、“稀代のラフマニノフ弾き”と呼ばれる学長・柘植彰良と定期演奏会で共演するメンバーをオーディションによって選ぶことが須垣谷教授によって告げられる。この演奏会は国内外の音楽関係者からも注目されているうえ、コンマスはストラディバリウスを使用でき、更には後期の学費も免除されるのだ。これを蜘蛛の糸と捉えた晶は、臨時講師の岬洋介に励まされながらも一心不乱に練習に取り組み、なんとかコンマスの座を射止める。それからの日々は、晶にとってストラディバリウスと共に過ごせる夢のようなものだったが、ある日、彰良の孫娘である初音が使用する時価2億円のチェロ(ストラディバリウス)が保管室から盗み出され、保管室の楽器は事件が解決するまで使用できなくなってしまった。

晶に頼まれて岬が現場を検証した結果、小さな半透明の欠片が見つかった。岬は何かに気付いたようだったが、晶が答えを訊く前に須垣谷教授が岬を連れ去ってしまう。晶がこっそりあとを付けていくと、大学関係者が大麻の密輸に関わっているという話が聞こえてきた。その後も準備室に保管されていたピアノの破壊、大学の公式サイトへの殺人予告など事件は続き、ついに大学の理事会は定期演奏会を中止することを発表した。だが、オケのメンバーにとって、国内外の音楽関係者が集まる定期演奏会は将来の懸かったものであり、理事会と対立することになる。そんな一触即発の状況で岬はある提案をし、その場はなんとか取り持たれた。しかし、その提案とは「学長の代わりとして下諏訪美鈴にピアノを弾いてもらう」というものだった。これには美鈴の性格を知るオケのメンバーからの反発があった。だが、美鈴のピアノは岬の新鮮で具体的な指導によってオケとの親和性を次第に増していくのだった。

そして、演奏会当日。総勢56人のオーケストラが渾身の演奏を終えたあと、岬は一連の事件の真相を語り始める。

 

 これは形は音楽物語ですが、ちゃんとしたミステリーにもなっています。その事件を解決するのは岬洋介ですが、その事件解決のテクニックはストーリーのどんでん返しとともに鮮やかな手腕です。

 

 伏線はストーリーの冒頭からきめ細かく張り巡らされていて、読み進むにつれて、なるほどこいう仕掛けだったのかと納得します。それにも増して、登場する音楽の仔細をことば巧みに歌いこんで行くテクニックも見事です。この文庫本の解説はピアニストの仲道郁代さんが書いていますが、本職のピアニストも驚く描写の正確性で、音楽大学、特にクラシック会の音楽ドラマが密度濃く描かれていると驚嘆しています。

 

 ここでは前作でも登場した岬洋介の演奏するベートーヴェンのピアノ協奏曲第5番「皇帝」のエピソードから、豪雨の中で演奏されるチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲、そして、定期演奏会のラフマニノフのピアノ協奏曲第2番が登場します。まあ、タイトルからしてラフマニノフがメインと思いきや、個人的にはピアノとヴァイオリンで演奏したチャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲が一番感動的でした。岬洋介のピアノ、城戸晶のヴァイオリンの調べはこんなものだったのでしょう。二人とも暗譜で大雨の体育館の中で演奏するのです。

 

 

 予想通りというか、定期演奏会は岬洋介が指揮をすることになりますが、その経緯でも一悶着あるかと思ったのですが、そこはあっさりとすり抜けていたことだけがちょっと残念ではありました。が、学長の柘植彰良の代わりに下諏訪美鈴がピアノ独奏を担当するというのはお約束の展開でした。ストーリーの途中で大麻が出てきたときはどういう展開やらと訝しく思ったものですが、晶の恋人(?)の柘植初音がチェロ奏者のジャクリーヌ・デュプレと同じ多発性硬化症を発症していたことが後半明らかになります。そして、学長の柘植彰良も。

 

 

 この小説のどんでん返しのポイントはペーパークラフトでした。こんな発想はなかったのでびっくりしましたがあるんですなぁ。ペーパークラフトの奥深い世界が。考えてみれば、我が家も家を建てたときペーパークラフトで最初そのイメージを確認したことを思い出しました。

 

まだ取ってありました(^_^;)ミサワホームOII型

 

 ペーパークラフトのチェロ

 今はレーザーカットができるようでこれで色を塗れば遠目にはペーパークラフトとは気がつかないでしょうなぁ。