アバド/ベルリンフィル 最初のベートーヴェン 交響曲第9番 | geezenstacの森

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アバド/ベルリンフィル

最初のベートーヴェン 交響曲第9番

 

曲目/

ベートーヴェン 交響曲 No.9 ニ短調 Op.125 「合唱付」 

1. Allegro ma non troppo, un poco maestoso    15:24

2. Molto vivace    13:50

3. Adagio molto e cantabile    13:57

4. Presto - Allegro assai    22:46

 

指揮/クラウディオ・アバド

合唱指揮/トヌ・カユステ

演奏/ベルリンフィルハーモニー管弦楽団

  スウェーデン放送合唱団、エリック・エリクソン室内合唱団

ソプラノ/ジェーン・イーグレン
メゾ・ソプラノ/ヴァルトラウト・マイアー
テノール/ベン・ヘプナー
バス/ブリン・ターフェル

 

録音/1996/04/02,04-6 祝祭大劇場、ザルツブルク

P:パウリン・ヘルスター

E:マルクス・ハイラント

編集:ボブ・ホイットニー、マシュー・クッカー

マスタリング:ボフ・ホイットニー

 

SONY 88875134072-5

 

 

 今年はスケジュール的に、生でベートーヴェンの第九を聴く機会がなかったということで手持ちで何かないかと探していたらこんなCDが見つかりました。アバドはグラモフォンに全集を録音していることはつとに知られていますが、ソニークラシカルにこういう録音があったとは、このCDを見つけるまでは知りませんでした。

 

 実はこのCD単品のものではなく、ソニーインターナショナルが限定で発売した「BERLINER PHILHARMONIKER GREAT RECORDINGS」という8枚組のボックスセットの中に含まれているものなのです。グラモフォンに録音する前にこんな録音があったのですなぁ。で、面白いことに第九はこれが唯一のセッション録音なんですなぁ。ショップの案内にはこれがライブ収録だとしているものがありますが、ジャケットにもそういう表記は全くありません。ちなみに、この録音の1996年の4月のザルツブルクでの公演は以下のようになっています。データは「クラウディオ・アバド資料館」を引用しています。

 

30 März, 3 & 8 April 1996
Grosses Festspielhaus, Salzburg

Verdi
Otello

Ermanno Ormi (Inszenierung)

Barbara Frittoli (Desdemona)
Sara Mingardo (Emilia)
Ruggero Raimondi (Iago)
Placido Domingo (Otello)
Pierre Lefèbvre (Roderigo)
Vicente Ombuena (Cassio)
Giacomo Prestia (Lodovico)
José Fardilha (Montano)

Slowakischer Philharmonischer Chor Bratislava
Chor dell'Accademia Nazionale di Santa Cecilia

Südtiroler Kinderchor
(Einstudierung: Norbert Balatsch)

Berliner Philharmoniker 

1 & 7 April 1996
Grosses Festspielhaus, Salzburg

Rainer Kussmaul (violin)
Wolfram Christ (viola)

Mozart
Sinfonia Concertante Es-dur K.320d(364)

Bruckner
Symphonie Nr. 7

Berliner Philharmonisches Orchester

2 & 5 April 1996
Grosses Festspielhaus, Salzburg

Angela Denoke
Rosemarie Lang
Peter Seiffert
Bryn Terfel

Beethoven
Symphonie Nr. 9

Schwedischer Rundfunkchor
Eric Ericson Kammerchor

(Einstudierung: Tõnu Kaljuste)

Berliner Philharmonisches Orchester

 

 この年のザルツブルク音楽祭の公演は3月30日の過激「オテロ」から始まり4月8日の同「オテロ」で終わっています。で、肝心の「第九」は4月2日と5日しか演奏されていません。録音データでは確かに2日と、5日は公演日とダブっていますが、4日と6日は公演がありませんから、主にこの2日間で収録されたものと推察されます。2日はマイクセッティングかメインだったのではないでしょうかねぇ。まあ、このころの録音はいわゆるゲネプロを中心に録音して編集するスタイルをとっていますから、ライブと変わらないと言えばそれまでなんでしょうけど、この録音のどこを聴いてももライブのノイズは聴きとれません。

 

 アバドのソニーへの録音はシカゴ響と組んだものがほとんどですから珍しい一枚と言えるでしょう。そして、録音会場もザルツブルク祝祭大ホールということでこの点でも注目に値します。録音に4日間かけているということでも丁寧な仕事ぶりがうかがえます。ジャケットの表記にわざわざテープ編集者の名前、に加えマスタリングスタッフまで明記されているのも異例なことです。

 

 うがった見方をするなら、のちにグラモフォンへ録音した全集はライブ収録されたもので、最初に発売されたものはアバド自身も気に入らなかったということで、最終的に発売されたものはのちにイタリア公演で収録されたものに差し替えられているという点では、DGへの最初の録音はこのソニーの録音には及ばなかったということをアバド自身が自覚していたからなんでしょう。ただ、アバドにはこの10年前にウィーンフィルを振った全集もあり、ウィーン響による非合法ライヴCDも見かけたことがあります。結局アバドは、ベルリンフィルとウィーンフィルを振ってベートーヴェンの交響曲全集を録音した初の指揮者となりました。

 

 そういう意味ではこのセッション録音は当時のアバド自身が納得していた録音ということになるのでしょう。ただ、従来のフル編成での第九ということでは、ベーレンライター版の採用は一部にとどまり、あくまでも従来の大編成のオケで一部最新の研究成果を取り入れたといった演奏です。第2楽章のテンポ運びや第4楽章ホルンのシンコペーション部分など、ベーレンライター版に近い部分もありますが、第1楽章の81小節目のフルート、オーボエもブライトコップ旧版のままで、全体の印象としては従来のブライトコップ版の大編成オケの録音とあまり大差ありません。ただウィーンフィルの旧盤と比べると、曲全体のテンポが大幅に速くなりオケの響きも異なるために、聴いた印象はだいぶ異なります。

 

 第1楽章は適度に重厚感もあり、少し早めのテンポで駆け抜けていきます。ただ、1996年の録音にしては音質が良くなくて、音がこもって聴こえます。特にティンパニの響きが不明瞭でこのホールの特性なのかもしれません

 

 第2楽章Molto vivaceは、タ・タ・タ・タと一音一音を切るように演奏。弦のユニゾンの後のティンパニーがやけに静かで迫力不足です。個人的にはもう少し硬めのマレットで叩いた方が音が閉まったのではと思えてしまいます。

 

 第3楽章は文句無しにうまいです。絶妙のカンタービレが響きます。こういうところがアバドの長所なんでしょうなぁ。

 

 第4楽章は冒頭からアグレッシヴです。この楽章の低弦のレチタティーヴォが本当に歌っているように演奏されていて聴きものです。ただの力強さというよりは優しく諭すような声に聴こえる。低弦で演奏される歓喜のメロディがなぜか音が小さすぎてよく聴こえないのですが、続く高い弦に引き継がれてようやく聴こえるようになってくます。トゥッティでの歓喜のメロディはほとばしっていて、逆に音が爆発します。

 

 聴きものはバリトン独唱の「おお友よ、このような音ではない!」がフライングで、オーケストラの音が止む前に歌われてしまうのもこの録音の特徴です。なんどもリハをしているはずなのにこのテイクが採用されているということは確信犯的なフライイングでしょう。アバドは声楽が入った作品を得意としていますが、ここでも合唱が入ってからは特に良いように思います。合唱の迫力は圧倒的です。