麻倉玲一は信頼できない語り手
著者/太田忠司
出版/徳間文庫
死刑が廃止されてから28年後。日本に生存する最後の死刑囚・麻倉は、無人島だった離島に設けられた民間経営の刑務所内の特別拘置所で、刑を執行されることなく過ごしていた。
フリーライターの熊沢は、彼に関する本を執筆するため、麻倉本人からの指名を得て取材に向かう。
インタビューするうちに、麻倉が犯した数々の殺人事件に対して「彼らには死すべき理由があった。僕は審判なんだよ。人の命をジャッジする」とうそぶく本人の態度に、熊沢は激しい嫌悪感を抱く。
さらに驚いたことには、離島には麻倉に殺害された被害者の関係者が存在していた。また、離島にまつわる不気味な言い伝えを聞かされた熊沢は、この仕事の先にライターとしての成功を夢見ていた最初の気持ちが大きくぐらつくのを感じ始める。
そしてついに恐ろしい事件が起きた……。
読者の予想を覆す奇想ミステリーの問題作!---データベース---
第8回の「徳間文庫大賞2022」に選ばれた作品です。太田忠司氏も名古屋市出身の作家ということで、このブログでは頻繁に登場します。本格推理小説とコミック・ユーモア小説のどちらもいける作家ということで大いに注目しています。そして、この作品は本格推理小説ということで文庫書き下ろしで登場しています。
小説の中にもう一つの小説が書かれている入れ子式になっていますが、もう一つの大きな特徴は人里離れた孤島が舞台になっていることで、推理小説の黄金のパチーンを踏襲していることです。さて、その中で殺人事件が起こるのですが、これがまた奇妙な展開で殺人が殺人で無くなってしまうという、孤島のルールで進んでいく点です。舞台が終身刑の囚人を集めた拘置所ということで、島のルールが適用されてしまうのです。
舞台は三河湾に存在する無人島の「木兎啼島(ずくなきしま)」です。閉鎖空間に存在する拘置所が舞台ですが、元は廃墟と化したホテルです。時代設定としては日本が死刑制度を廃止したということでは近未来なのかもしれません。
この設定、舞台上演には最適です。登場人物は主人公の熊沢克也と広報課の重山紀之、看守長の長谷部奈緒、そして語り部の朝倉玲一、あとは船長ぐらいなもんです。
読み進めていくと朝倉玲一がだんだんデス・ノートの「夜神月」にダブってきます。人を人と思わないその考え方に最初はぞっとしますが、いろいろ物語を積み重ねていくうちにどんどん慣れていく自分がいます。細かい演出と小細工が大きな伏線になっているので読み飛ばすとストーリーがこんがらがります。最初のエピソードからして、小さなどんでん返しがあります。
そんな話の積み重ねで、最後にまた大きなどんでん返しがあります。解説者の村上貴史氏はこのどんでん返しはベタ誉めですが、個人的にはちょっと現実の社会では唐突で共感はできません。それでも、太田忠司氏の代表作の一つにはなを連ねるでしょうなぁ。