沸騰 ! 図書館
100万人が訪れた驚きの箱物
著者/樋渡 啓祐
出版/カドカワ
人口5万人の町に日本中から客が訪れる、佐賀県武雄市“TSUTAYA”図書館の挑戦! TSUTAYAを運営するCCCを指定管理者にして図書館を大きく変えた武雄市長が、オープン前後の1年間の奮闘を綴る。---データベース---
記憶の彼方に、そういえばこういう図書館ができて話題になったことがあったなぁ、と気になってこの本を手に取りました。当時は全国区のニュースにもなり、カルチャー・コンビニエンス・クラブが痛く運営業者となり、図書館の中に本屋ができるとか、図書館にスターバックス・コーヒーが併設されているとかで話題になったものです。この武雄市図書館がオープンしたのは2013年の4月1日です。
この本の特徴は図書館リニューアルの先頭に立った当時の武雄市市長の樋渡 啓祐氏が書いているということです。つまりは当事者の手になるということでは一方通行的な本でもあるわけです。そこのあたりは斟酌して読む必要がありますが、反対に当事者ならではの視点や問題点も浮き彫りにされています。この本の章立てです。
目次
第1章 閉館図書館と呼ばれて(夕方早々で「入館、お断り」;自己紹介、良くも悪くも ほか)
第2章 TSUTAYAを口説く(カンブリア宮殿で一目ぼれ;増田社長に会いたくて ほか)
第3章 大荒れ議会と大荒れネット(基本合意;平凡公務員、嵐に遭う ほか)
第4章 新図書館攻防戦、土壇場まで(スターバックスにこだわる;アンケートの追い風に ほか)
第5章 図書館に街が誕生した!(オープン初日で悪夢が消える;スタバ店員「市長、もう無理しないでください」 ほか)
この第1章の前に「はじめに」と題されたプロローグがあるのですが、ここでいきなり選挙の話が出てきます。ちょいと政治家ならぬ、政治屋の匂いが漂うということではひいてしまいました。ただ、本文に関しては今の図書館のあり方について、常々疑問に思っていることをスバズバ利用者目線で切り込んでいくあたりは引き込まれてしまいます。
小生も図書館はよく利用しています。しかし、地元の図書館は平日午後7時、土・日だと午後5時で閉館、毎週月曜日は休館、さらには特別図書整理日なんてものもあり2週間以上休館していることもあります。不定休で働いている身にとっては、この固定された営業形態は不便で利用価値は半減です。まさにお役所仕事でしょう。全国の公立図書館もだいたいこれに準拠したものでしょう。ただ、お題目にはこういうことを謳っています。
1.多様な資料を収集すると共に電子情報へのアクセス環境を整え、すべての市民の「知る」を支えます。
2.乳幼児から高齢者まで生涯にわたる読書を支援します。
3.図書館利用に障がいのある人の読書、情報収集を支援します。
4.市民の多様な創造活動を支えます。
5.地域の様々な機関と連携し、地域資料を収集、整理、保存します。
多分、こういう営業形態では今の若者は図書館に足を運ぶということはしないでしょう。時間を持て余した高齢者が行き場のないことを理由に図書館にたむろするだけです。これは今の公共の図書館の限界を示していると思います。
少しでも、若者の足を図書館に向けさせたいのなら、オペレーションをこの武雄市図書館のようにC,C,Cのような民間の指定業者に任せ、基本年中無休で、夜9時まで開館ならもっと図書館を利用するでしょう。
この本が書かれた2014年当初は浮かれていた気分もあります。何しろそれまでの年間来館者をわずが4ヶ月で更新し、佐賀県の一地方都市に観光客が殺到という現象も見られました。現在はどうかというと、この本で提案のあった子供図書館も増設されていますし、批判のあった水飲み場を再設置したりと問題点も解消され、現在もこの運営スタイルは継続されています。そして、時代の変化に対応してCDやDVDのレンタルは廃止されています。
この武雄市図書館の誕生はその後神奈川の海老名市の図書館、宮城県の多賀城市図書館、周南市駅前図書館、などにも波及しています。ただ、個人的には思ったほど波及はしていないなぁと思えます。
市長の強引とも思える手法は結構反論もあったようで、この本でも取り上げられている「図書館問題研究会」の下記のような反論もあります。
反論
愛知県の地元の大府市には「おおぶ文化交流の杜」の中にある図書館はよく健闘していて、開館は9:00−20:00まで、休日も月一の月曜日、その他整理日と頑張っています。PFI方式で整備された施設です。小生も訪れましたが、車でないといけないとか入れ物は立派ですが、無駄な空間が多いなぁと感じた次第です。