「芭蕉と蕪村と若冲」展
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福田美術館の2Fの奥、つまりは1Fのカフェスペースの上になりますが、こちらは「パノラマギャラリー」というスペースになっています。そして、このスペースで芭蕉が40代の頃に自書した《野ざらし紀行図巻》が約50年ぶりに再発見され、福田美術館にて初公開されています。言って見ればこれがこの展覧会の目玉なんでしょう。言って見れば一粒で二度美味しい展覧会と言えます。
今回公開されている「野ざらし紀行」は次のような特徴があります。
●約80年ぶりに一般公開※か →1942年の展覧会以来一般公開された記録がない※
(少なくとも半世紀以上は世に出たことはない)
●芭蕉自筆としては天理本のほか本作しか確認されていない
●はっきりと時期のわかる芭蕉の筆跡と画作が一望できる
(天理本には挿絵はない)
●本文と挿絵がいかなる関連性を持って描かれているかが
検証できる
●今後の研究資料としての価値がある(どういう工程で本文
と挿絵を施したか、絵と文との関係性など)
●芭蕉と交流のあった俳人、山口素堂による
序文がある(天理本にはない)
●『芭蕉全図譜』(岩波書店)に所載の筆跡
との比較検討によって、真筆であると確証
される
●自筆本...天理本(天理大学附属天理図書館蔵)
→福田本とほぼ同じ内容であるが挿絵は無し。福田本よりも先行して書かれている
福田本(福田美術館現蔵/過去に御雲本、藤田本とも)←今回再発見された本書
●写 本...三康本(濁子書写画巻/三康図書館蔵)、狐屋本(狐屋写/彦根専宗寺蔵)、
蕪村写本(蕪村写書画屏風)、名称寺本(『芭蕉行脚乞食袋』所収/奈良県名称寺蔵)
●版 本...泊船本(元禄11年刊『泊船集』所収) 波静本(安永9年刊、今回の福田本を元にするが、挿絵は無し)
「野ざらし紀行」は貞享2年(1685)に初稿したとされ、松尾芭蕉40代の貞享元年8月に江戸 を出立し、貞享2年正月までの間に伊勢から伊賀、大和、近江、尾張を巡り、再び伊賀を経由 して京より近江、尾張を通り4月末に江戸に帰庵した行程と道中に詠んだ歌を記したもの。 蕉風と呼ばれる芭蕉の俳風が完成されるきっかけとなったと思われます。 「草枕」「野晒紀行」「甲子吟行」「芭蕉翁道の記」などとも呼ばれ、自筆の題簽がある「奥の細道」とは異なり、芭蕉自身による表題はありません。が、公開されている巻物のタイトルには『甲子吟行』という文言が見えます。
ただ、書き出しの初句が、
野ざらしを心に風のしむ身哉
ということで、一般に「野ざらし紀行」と呼ばれています。今回はこの野ざらし紀行のマップが展示されていました。
このマップに加え、作品の中の解説が、この上なくわかりやすく、確かに俳句になじみがない方や美術鑑賞慣れしてない方でも楽しめるように工夫されています。
この福田本の素晴らしいのは芭蕉が自筆で絵を添えている点です。
32 松尾芭蕉像 与謝蕪村
「野ざらし紀行図巻」は、芭蕉が江戸を出発し、故郷の伊賀や京都を経て再び江戸に戻る道中に詠んだ歌を記したものですが、芭蕉自ら描いた絵も記されている大変珍しい巻物です。15mの巻物には45の句と21の場面が書かれていて、京都・鳴滝の梅林ののどかな風景も、淡い色使いと巧みな筆遣いで表現されています。
この「野ざらし紀行」再発見は共同がニュース配信していました。
誠に興味深い展覧会でロケーションといい題材といい、何度も足を運びたい美術館です。ただ、駐車場はないので気軽に訪れるわけにはいかないのが難点でしょうか。