ジョン・ジョージアディス/ジプシー・ヴァイオリン名曲集 | geezenstacの森

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ジョン・ジョージアディス

ホラ・スタッカート

 

曲目/

 

ヴァィオリン/ジョン・ジョージアディス

ピアノ/スーザン・ジョージアディス

 

録音/1976

CBS SONY  25AC685 (原盤  Discourses)

 

 

 ジョン・ジョージアディスの名前を知っている人は相当のクラシック通でしょう。1965年から1973年までロンドン交響楽団のコンサートマスターを務めた人物です。ちょうどロンドン響のシェフがアンドレ・プレヴィンだった時代とダブっています。というのも、一度退団してフリーになっているのですが、プレヴィンに請われて1977年に再びロンドン響のコンマスに戻っています。そしてプレヴィンがロンドン響を去った1979年に再びロンドン響を退団しています。

 

 日本のWIKiには項目がありませんが、英語版を引用するとこのジョージアディス、1939年にエセックス州のサウスエンド・オン・シーで生まれ、近くのレインドンという町で育ちます。そして幼少期に家族でオーストリアに旅行した際、ウィリー・ボスコフスキーと出会い、彼がイギリスを訪れた際にレインドンに滞在した折り、幼いジョージアディスをレッスンしています。英国王立音楽院でフレデリック・グリンケに師事したのち、1963年にバーミンガム交響楽団にコンサートマスターとして入団しさらに1965年、ロンドン交響楽団にコンサートマスターとして移ります。

 

 1973年に最初の退団を迎えますが、この間メノッティのヴァイオリン協奏曲を英国で初演し、バルトークのヴァイオリン協奏曲第1番をロンドンで初演しています。1972年、アンソニー・カムデン(オーボエ)、ダグラス・カミングス(チェロ)、ジェームズ・ゴールウェイ(フルート)と共にロンドン・ヴィルトゥオージ室内アンサンブルを結成、音楽監督を務めていました。その後、ロイヤル・リバプール・フィルで指揮活動を開始し、1976年にはBBC交響楽団とブリス協奏曲を録音しています。1977年にはコンサートマスターとしてロンドン交響楽団に戻った際には、セルジュ・チェリビダッケと出会い、その関係は8年に及びます。1

 そして、1977年元旦、ロイヤル・アルバート・ホールでオーケストラを指揮し、かつての師ウィリー・ボスコフスキーのウィーンスタイルの弾き振りで2015年までニューイヤーコンサートの指揮者を続けました。その間、1982年からはエセックス・ユース・オーケストラの首席指揮者を務め、11年間在任した。1987年にはガブリエリ四重奏団に参加し、1990年に退団するまで第1ヴァイオリン奏者を務めています。1992年にはバンコク交響楽団から声がかかり、1994年には同楽団の音楽監督兼指揮者となり、その後、自身が設立に関わったマレーシア・フィルハーモニー管弦楽団の常任客演指揮者にもなります。レコードも多数残していますが、2021年1月5日に亡くなっています。

 

 とまあ、こういう経歴の持ち主で、アジアにも結構足跡を残しています。

 

 さて、このアルバム、元々のタイトルはCBSからの発売は「ホラ・スタッカート」がメインになっていますが、邦題は「ジプシー・ヴァイオリン名曲集」となっています。もともと、Kelsey Recordsから発売されていた時のタイトルを使っています。

 

 

  さて、このレコード最初はモンティの「チャルダッシュ」から始まっています。ここでのジョージアディスのヴァイオリンはジプシー風の訛りはほとんどなく、イギリス風の上品な演奏に仕上がっています。まあ、もともとこのモンティはイタリア人でパリに出てラムルー管弦楽団のコンマスとして活躍した人ですから、本来はこういう演奏がスタンダードだったのかもしれません。

 

 

 「ヘレネ・カティ」はハンガリー語で「おいでよ、カティ」と女性に呼びかけている意味で、ジプシーの間に伝わる民謡を使った小品で、ブラームスもこの題材を使用しています。名人芸風の技巧が凝らされた作品で、それをジョージアディスのヴァイオリンは難なく弾きこなしています。

 

 ハンガリーの生んだ大作曲家バルトークのピアノのための作品集です。それを親友のゾルタン整形がバイオリン用に編曲したものです。バイオリンで演奏されると、ラマの音楽としてのメロディーがいっそう哀愁を帯びて表情豊かになるような気がします。


 

 A面の最後はサラサーテの名作「チゴイネルワイゼン」です。しかしここではジョージアディス自らが編曲した版で演奏しています。サラサーテのこの曲はジプシーの歌を意味するドイツ語で表されていますが、サラサーテの自身のスペインの音楽とは異色な作品になっています。そんなことで、ジョージアディスはスペインから見たジプシー音楽を表現したかったのかもしれません。


 

  本来のこのアルバムのタイトルになっているディニークの「ホラスタッカート」です。ディニークはブカレストの生まれですが、ルーマニアの民族音楽をうまく取り入れてポピュラリティーのある曲に仕上げています。そんなことで1番親しみがあるのではないでしょうか。ハイフェッツのような癖のある演奏ではなく、あっさり目の表情付けが聴きどころです。

 

 

  このアルバム最大の大曲はこのフバイの6つのハンガリア詩曲でしょう。冒頭サラサーテのチゴイネルワイゼンの旋律が聞こえてきます。ということで、その関連でこの曲が選ばれているのでしょう。ジョージアディスは両曲での、表情付けの違いをクッキリさせることで曲を浮かび上がらせています。

 

 

 アルバム最後を飾るのはヤッシャ・クレインと言う作曲家の作品ですが、日本ではほとんど知られていないでしょう。ロシアの生まれですがイギリスでホテルの座付きオーケストラの指揮者兼バイオリニストを務めていました。このジプシーオーケストラで演奏していたのがこの作品のようです。ルーマニアのジプシーのメロディーをいくつかつなぎ合わせて楽しめる生ピースに仕上げています。ここではジョルジュ・エネスコのルーマニア狂詩曲の中で用いられているホラーの調べも聞くことができます。


 バイオリンとピアノによる夫婦の共演によるこのアルバムは、息がぴったりと合いなおかつ民族音楽としてはどっぷりとつかっているわけでもないさらりとした演奏に仕上がっていますか聞くものの耳をとらえます。本来はマイナーレーベルに録音されたものですが、CBSがこれを買い取ることによって全世界に販路を広げたのはとても意義のあることではないでしょうか。