展覧会の絵/ジョージ・セルvsリヒテル | geezenstacの森

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展覧会の絵

ジョージ・セルvsリヒテル

 

曲目/ムソルグスキー

1.組曲「展覧会の絵」ラヴェル編曲  31:08

2.組曲「展覧会の絵」オリジナルピアノ版*  29:25

 

指揮/ジョージ・セル

演奏/クリーヴランド管弦楽団

ピアノ/スヴァトスラフ・リヒテル*

 

録音/1963/10/30 ラヴァランス・ホール、クリーヴランド

  1958/02/25(ライブ)    ソフィア、ブルガリア*

P:ポール・マイヤーズ

 

 

 アメリカCBSの廉価レーベル、オデッセイから発売された「展覧会の絵」の管弦楽版とオリジナル版のカップリングです。発売されたのは1973年です。当時アメリカのCBSはフィリップスと提携していましたからこういう組み合わせが実現したのでしょう。日本では絶対発売不可能なアルバムです。当時の日本では、フィリップスはビクター系列のレーベルの一つで、ようやく独立してフィリップスレーベルが立ち上がっていました。

 

 ちなみに、日本ではこのリヒテルの録音はハイティンク/コンセルトヘボウ管弦楽団との組み合わせで、フォンタナからPL17として発売されていました。

 

 

 さて、このレコードです。当然セル/クリーヴランドの録音はステレオで収録されていますが、リヒテルの演奏はライブということもあり、モノラルでの収録です。ちゃんとA面とB面で表示は分かれています。

 

 

 

 ここで採用されているセル/クリーブランド管弦楽団の録音は緻密なアンサンブルの極致といってもよく、室内楽的美学を貫徹する潔さを感じます。ラヴェルの編曲なので、もう少し華やかさがあってもいいと思うのですが、セル自身もピアニストとしても十分にやっていける技量の持ち主ですから、ここでも、ピアニスト的アプローチで取り組んでいます。

 

 音は端的で粘らず、ブラス群も無愛想な響きです。しかも弦楽器も含めて楽器のバランスは完璧に管理され、響は室内楽的で濁りません。各楽曲ごとの表情の変化は少なく、引き締まったフォルムは独自の美感を持ちます。ラヴェルの編曲はきらびやかな色彩感に包まれるはずですが、この演奏は、最大の盛り上げどころの「バーバ・ヤガ」や「キエフの大門」でも効果を狙っていません。徹頭徹尾セルの展覧会の絵になっています。

 

 聴いていて面白いかといわれると遊びのなさに窮屈さを感じないではありませんが、キエフの大門の最後の方で、他の演奏では聞き取れないハープの音が聴き取れるのでびっくりしました。29分ぐらいのところです。また、そのょっと後の最後の最後、主題が回帰し壮大に盛り上がる場面でティンパニの単打をトレモロクレッシェンドに変更して叩かせています。

 

 もう一つ、このセル/クリーヴランドの録音もプロデューサーは、ポール・マイヤーズが担当していますが、ここでは残響の少ないスリムで明晰な録音に徹しています。明らかに、おーマンディ/フィラデルフィアとは違う音作りです。指揮者、オーケストラ、そして録音会場を考慮してのサウンドなのでしょう。こういう仕事が本当のプロデューサーの仕事なんでしょう。

 クールな演奏、録音ですが改めて聞いてみて当時の優秀録音であることを再認識しました。

 

 

 さて、リヒテルは「展覧会の絵」を3枚残しています。191956年プラハのライヴ、1958年ソフィアでのライヴ、そして1958年のスタジオ録音です。その中で、完成度の高さと録音の良さでは1958年のスタジオ録音が1番ですが、傑出しているのはソフィアでのライヴです。前半はかなり派手なミスタッチの連続ですが、早いテンポで猛烈に突き進む壮絶な演奏。特に後半は灼熱の名演で、「ババヤーガの小屋」から「キエフの大門」にかけては、とても落ち着いて聴いていられないほどの迫力です。まるで何かに取り憑かれたような演奏で、鋼のようなタッチから繰り出される音の洪水に圧倒されます。この演奏を超えるものは今のところありません。

 

 プラハのライヴは、どちらかといえばスタジオ録音とほぼ同じアプローチですが、スタジオ録音ほどの完成度とソフィア盤ほどの熱気もなく、中途半端な印象でいまひとつといったところでしょうか。そんなこともあり、この1958年ライブは1960年のディスク大賞を受賞しています。