アーサー・フィードラーの夢のファミリーコンサート | geezenstacの森

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アーサー・フィードラー/ボストン・ポップス

夢のファミリーコンサート

 

 

 

 不思議に思っていることの一つとして、日本ではアーサー・フィードラー/ボストン・ポップスのレコードはあまり売れなかったのでしょうか、各レコード会社からいろいろなボックスセットが発売されていますが、あれだけ膨大な録音を残したアーサー・フィードラーのボックスセットは発売された形跡がありません。ボストン・ポップス者に感はてはジョン・ウィリアムズが音楽監督になって以降はソニーが、積極的にボックスセットのCDを発売していますが、RCA時代のボストン・ポップスのアルバムは単発で数展発売しているのみです。そういうこともあり、このリーダーズ・ダイジェストがレコード時代に発売したボックスセットは今となっては大変貴重なものとなっています。

 

 今でこそ 調べたら分かることですが、これは 当時 リーダーズ・ダイジェスト社という アメリカ資本の会員制通販出版社が、RCAレコードと提携して その音源を使用した「セミ・クラシック全集(フィードラーとボストン・ポップスによる夢のファミリー・コンサート )」なる 10枚セットを 布張のカートンボックスに収め、自社の広範な販売網に乗せて大々的に販売していた企画商品がオリジナルでした。

 

 このボックスセット、ブック・オフで購入したことになっていますが、いつ購入したかは不明なもので、当然このブログでも取り上げていません。表向きは10枚組ですが、さらにボーナスとして「フィードラーとボストンポップスでウエスタンと映画音楽を」というアルバムが1枚封入されています。全体のタイトルは「夢のファミリーコンサート」ですが、収録されている曲はどういうセンスで選ばれたのかはてなマークが5つぐらいつく奇妙なものとなっています。今回はこのセットの中から特に気になった4枚目の「ウィーンの香り」と題された一枚を取り上げます。

 

ウィーンの香り

曲目/

1.円舞曲「ウィーンの森の物語」(J.シュトラウス)

2.エジプト行進曲(J.シュトラウス)

3.芸術家のガドリーユ(J.シュトラウス)

4.喜歌劇「リュクサンブール伯爵」円舞曲(レハール)   

1.円舞曲「南国のバラ」(J.シュトラウス)

2.ポルカ「観光列車」(J.シュトラウス)

3.愛の喜び(クライスラー)

4.加速度円舞曲(J.シュトラウス)


 定番曲「ウィーンの森の物語 」や「南国のバラ 」には、まあ文句ありません。「ウィーンの森~ 」には ちゃんと オリジナルどおり ツィター奏者が起用されています。が、音楽ビギナーを対象に「ウィーンの香り」などという看板を掲げる一枚に、ヨハン・シュトラウスの まともな(?)ワルツが この二曲だけとはあんまりではないでしょうか。ましてやアーサー・フィードラーの豊富なRCA音源の中から これらをわざわざ選んだとしたなら、その選曲者の嗜好を疑ってしまいます。どうして「加速度円舞曲」なんて 変化球を採用したんでしょうなぁ。そもそも「美しき青きドナウ」は、何処へ流れてしまったというのでしょう? 

 

 

 少なくとも「春の声」や「ウィーン気質 」くらいは、入れるべきだったのではないでしょうか? だって初心者向けですからね。そうだとしたら「こうもり」序曲なんか入れておけば、とても良いと思うのですが。「アンネン・ポルカ 」も、やっぱり「ラデツキー・マーチ 」も、ビギナーには聴かせたいですよね? 

 

 

 百歩譲ってレハールを入れたいのなら「メリー・ウィドウ」か やっぱり「金と銀」が 順当ではないでしょうか? 千歩譲って「愛の喜び」を入れたいなら・・・ いや、そもそも初心者には まずクライスラー原曲であるヴァイオリンとピアノ伴奏による演奏を聴かせるべきではないですか。

 

 さて、中でも最も不思議な印象を抱いたのが「芸術家のカドリーユ」という一曲でした。これは、冒頭から突然メンデルスゾーンの「結婚行進曲」で始まるのです。そして、間髪を入れず、モーツァルトの第40番 のメロディが続きます。思わず 薄い紙のジャケットをひっくり返し、作曲者の名前を確かめます。
 ええっと、「芸術家のガドリーユ」-ヨハン・シュトラウス作曲? ・・・って それだけかい。


 だって 続いて流れてきたのは、ウェーバー作曲の「オベロン」序曲に出てくるメロディだし。次にはショパンのソナタ第2番から「葬送行進曲」中間部長調のメロディが。さらにパガニーニ作曲の「ラ・カンパネッラ 」・・・ と、この曲が どうして 現代の名曲メドレー ちゃんちゃかちゃん みたいな 作りなんだろ、という本質的な疑問を差し置いて、これがヨハン・シュトラウスの作品ということにびっくりです。

 「芸術家のカドリーユ 」は、1858年 2月 ウィーン・ゾフィエンザールで開かれた舞踏会のために、シュトラウスが その年のコンサート・シーズンをおさらいする目的で「巨匠たちの名旋律を使い」当時の習慣に従って パンタロン → エテ → ブーレ → トレニス → パストゥーレル → フィナーレ という 6つのパートから成るメドレー(接続曲)「カドリーユ」という形式枠に当てはめたものだったのです。

 

 マリス・ヤンソンスが 2006年のニューイヤー・コンサートの指揮台に立った時、この「芸術家のカドリーユ 」をプログラムに採りあげていたことを記憶しておられる方も多いことでしょう。フィナーレで乱入して大暴れするベートーヴェン(トルコ行進曲と、半音階で上昇する気品あるメロディ )で、物凄く盛り上がる、ホラ あの曲ですよ。