ストコフスキーの新世界
曲目/
ドヴォルザーク/交響曲第9番ホ短調Op.9「新世界から」
I. Adagio - Allegro Molto 9:51
II. Largo 14:16
III. Scherzo - Molto Vivace 6:52
IV. Allegro Con Fuoco 12:36
スメタナ
5.我が祖国から「モルダウ」* 12:25
6.「売られた花嫁」序曲* 7:04
指揮/レオポルト・ストコフスキー
演奏/ニュー・フィルハーモニア管弦楽団
RCAビクター交響楽団
録音/1973/07/02,04 ウォルサムストウ・タウン・ホール
1960/02/18 マンハッタンセンター、ニューヨーク
P:リチャード・モア*、ピーター・デルファイム
E:アンソニー・サルヴァトーレ*、ロバート・シンプソン
BMG 09026-62601-2
NHK FMではこの8月22日から25日まで「ストコフスキー変奏曲」というプログラムが放送されます。今年生誕140年を迎えた指揮者がレオポルド・ストコフスキーということでの特集です、イギリス生まれで主にアメリカで活躍したストコフスキーは、クラシック音楽を大衆に届けるべく、それまでの指揮者が取り組まなかった様々な試みに挑戦しました。会場ごとによりよい響きを求めた楽器配置、ディズニーアニメとクラシック音楽のコラボレーション、最新の録音技術の採用などなど。クラシック音楽の伝統を受け継ぎつつ、新時代のクラシック音楽のありようを探求し続けた稀代の指揮者ストコフスキー。番組では4日間に渡って彼の残した録音を聴きながら、知られざる素顔に迫ることになっています。
その番組では取り上げられていませんが、我家に眠っていたストコフスキーの「新世界から」を取り上げることにしました。ただしこの録音、決して最初に聴くべき演奏ではありません。あくまで、ストコフスキーの「新世界から」ということを承知の上で聴くべきです。
91歳のストコフスキーの、そして実に25年ぶりの再録音です。造形の確かさと音楽の流れの自然さでとても90過ぎの老人とは思えない演奏ですがモノラル時代の旧録音に比べると遅いテンポと重いダブついた響きが、やや老いを感じさせなくもありません。まあ、小生の手元にあるのは「ストコフスキー・ステレオコレクション」と題された1990年代に発売されたもので、このころ発売されたCDはなぜかドルビー・サラウンド処理がなされています。この一枚もスリーブの裏にはその表記があります。ということでそういう装置で聴かないと音場がぼやけて、まるで風呂場で聞いているようなふやけた音になってしまいます。
第1楽章序奏のティンパニは、2段打ちで4分音符からトレモロで開始されます。そして、全体にテンポが遅いのに第2主題直前でさらにぐっとテンポを落としています。下に代表的な録音をリストアップしていますが、アンチェルまでは第一楽章の提示部ホ省略しています。カラヤンとケルテスは提示部を繰り返していますが、ストコフスキーの演奏はデジ部を繰り返していないのにもかかわらず、ケルテスよりも遅い演奏時間です。いかに遅い演奏家がわかろうというものです。さらにびっくりさせられるのが。劇的なコーダの部分でトランペットとホルンはトリルで咆哮していることです。まあ、ストコフスキーの会部は有名なことですが、さすがにこの変更は目が点になりました。
こういう変更は随所にあり、第2楽章では終結部のコラール前、ファーストヴァイオリンのピアニッシモをフォルテに改変しています。さらにコーダではヴァイオリンが長く最後までのばす中にコントラバスが侵入しています。
第3楽章では最初のリピートをカットしています。また、第4楽章では第1主題の1回目はトランペットを休ませホルンのみで演奏していますし、2回目はホルンを休ませトランペットのみといった独特の改変があり、まるで間違い探しのような仕掛けになっています。まあ、テンポは自由に伸び縮みし、あり得ないところでドラがなったりシンバルが炸裂したりと、まさにやりたい放題のスト節が炸裂しています。
演 奏 | 第1楽章 | 第2楽章 | 第3楽章 | 第4楽章 |
セル/クリーヴランド | 8:41 | 12:10 | 7:53 | 10:54 |
トスカニーニ/NBC | 8:31 | 10:34 | 7:24 | 10:15 |
アンチェル/チェコPO | 9:05 | 11:35 | 7:45 | 11:13 |
カラヤン/ウィーンPO | 9:58 | 12:27 | 8:36 | 11:25 |
ケルテス/ウィーンPO | 9:41 | 11:41 | 7:36 | 11:03 |
ストコフスキー/ニュー・フィルハーモニア管 | 9:42 | 14:09 | 8:06 | 11:08 |
今回改めて聴いてみてさらに気がついたのですが、細かなところで実に緻密な計算の糸が張り巡らされていました。まさに音の魔術師ストコフスキーの面目躍如です。
この曲で同じ旋律が再び現れる場合、ドヴォルザークは必ず多少の変化をつけていますが、ストコフスキーの場合はさらに木管楽器のトリルを付加するなどの細かい表情付けがあります。さらに凄いのは木管楽器に注目してみると、この曲でしばし出てくるフルートとオーボエのユニゾンでは、ふたつの楽器のバランスを秒単位!で微妙な変化を付け、万華鏡のような色彩感を演出しています。
そんなこともあり、普通の新世界を聴き飽きた人には絶対のおすすめ演奏です。
参考までにケルテスの音源も貼り付けておきます。
上の音源にはスメタナの作品も収録されています。そちらは自分の耳でスト拳を確かめてみてください。