幻想古書店で珈琲を
著者/蒼月海里
出版/角川春樹事務所 ハルキ文庫
大学を卒業して入社した会社がすぐに倒産し、無職となってしまった名取司が、どこからともなく漂う珈琲の香りに誘われ、古書店『止まり木』に迷い込む。そこには、自らを魔法使いだと名乗る店主・亜門がいた。この魔法使いによると、『止まり木』は、本や人との「縁」を失くした者の前にだけ現れる不思議な古書店らしい。ひょんなことからこの古書店で働くことになった司だが、ある日、亜門の本当の正体を知ることになる。切なくも、ちょっぴり愉快な、本と人で紡がれた心がホッとする物語。---データベース---
大型書店の一画で(勝手に)古書店を営む「魔法使い」の物語。神田神保町の大型書店ということは三省堂がモデルなんでしょうなぁ。その4階にあるというのが古書店の「止まり木」なんですが、普通の人には入り口がわからないという存在です。
目次
第1話 司、亜門と邂逅す
幕間 夜の珈琲
第2話 司、亜門の下で働く
幕間 丘の上の珈琲
第3話 司、亜門の正体を知る
日常の謎あり、オカルト事件あり、優雅で上品なタッチに「短めで心温まるお話」は読者の御期待通りで好感触なのですが、就活中の主人公は失業中といえど全く生活感がなく、ましてや、止まり木の店主は魔法使いという設定なので、端からファンタジーだということがわかります。決して「ビフリア古書店」と同じだと思ったら大間違いです。
登場人物の設定がいい加減すぎて、最初は小説本を読むと眠くなるとか文字を追うのが億劫だと言っておきながらこの古書店のアルバイトを始めます。そんな、主人公の思考があまりに展開の御都合通りなのでストーリーに引き込まれません。第1話は普通の古書店でのあるある話なんですが、いきなり第2話ではハリーポッター並みのファンタジーの話になります。これが本当の展開なのかと思って読み進めると意外としょぼい結末でがっかりです。
さらには亜門が魔法使いだということがわかっているのに第3話では大正時代の関東大震災の話が登場するのですが、その時代で亜門が出会った女性のことについて司がいろいろ詮索するのは野暮というものでしょう。たかが200年前の話ですが、魔法使いからしたら200歳なんて年齢のうちに入らないでしょうに。さらには、本来の姿がたとえ、人間以外の生き物(?)であっても当然のことでしょうなぁ。
このシリーズは作者の代表作の一つらしく、全7巻発売されています。まあ、小説自体はまだ3話の展開でしかありませんから、もう少しこの小説と付き合ってみることにします。