この一瞬に価値がある
-バルトロメイ家とウィーン・フィルの120年-
著者:フランツ・バルトロメイ
坂本謙太郎 監訳/坂本明美 訳
出版:音楽之友社
三代にわたってオーケストラと歌劇場を支えた一族、バルトロメイ家を通じて語られる、ウィーンの響き、ウィーン・フィルの伝統。---データベース---
【フランツ・バルトロメイ 】
1946年ウィーン生まれのチェロ奏者。2012年まで45年間にわたってウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ウィーン国立歌劇場に所属し、うち39年間は首席チェロ奏者を務めた。祖父(首席クラリネット奏者)、父(ヴァイオリン奏者・副楽団長)に次ぐ三代目のウィーン・フィルの奏者。室内楽奏者としてもウィーン・ムジークフェライン四重奏団、ウィーン・ヴィルトゥオーゼンで活躍。またソリストとしてバーンスタイン、ヤンソンス、ラトルなど多くの巨匠と共演。特にプレヴィン指揮のウィーン・フィルと録音した『ドン・キホーテ』(リヒャルト・シュトラウス)は名盤として知られる。来日は1973年以来55回以上。ウィーン・フィル、オペラ、カルテットの団員として、またPMFの講師や公開セミナー、ソリストとしても来日、日本でのファンが非常に多いウィーン・フィルの顔的存在。
著者は、2012年まで45年間にわたってウィーン・フィルハーモニー管弦楽団/ウィーン国立歌劇場に所属し、うち39年間は首席チェロ奏者を務めた。39年という在任期間は同団の歴史上、最長記録ということです。祖父(首席クラリネット奏者)、父(ヴァイオリン奏者・副楽団長)に次ぐ三代目のウィーン・フィルの奏者。しかしその伝記ではなく、一族が関わった時代のヨーロッパの歴史・音楽状況、共演した名演奏家の話などから、ウィーンの音楽・オーケストラ文化、ウィーンの音楽家、ウィーン・フィルの響きの謎が描かれています。「この一瞬に価値がある」は、ウィーン・フィルに影響を与えた指揮者の一人アーノンクールの言葉からとっているそうです。そこには、芸術こそが時代の一瞬を切り取り永遠のもとのとする、という著者の思いも込められています。
最初は一族の歴史から紐解かれます。ということでは最初は面白くありません。しかし、当時の時代背景はひしひしと伝わってきます。この本の章立てです。
【目次】
第1幕 フランツ1世と民族主義:
幼年時代
ボヘミア国民劇場の第一クラリネット奏者
ウィーン宮廷歌劇場のオーディション
間奏曲:
フランツ・バルトロメイ3世の「ウィーンの響き」論
第2幕フランツ2世と二つの大戦:
ウィーン少年時代
第一次世界大戦後
1930年のウィーン音楽アカデミー
第二次大戦中のウィーン国立歌劇場
ウィーン・フィルの副楽団長として
ウィーン交響楽団の監督に
第3幕 フランツ3世:
ウィーン国立歌劇場のライオン
「ごく普通」の家庭
国立歌劇場管弦楽団の補充要員時代
三代目の歌劇場団員
大きな転機
ここでオペラ、あそこでコンサート
マエストロと演奏するということ
室内楽
コーダ:伝統にまつわる機会と責任の重さ
フランツ・グラーフ・フォン・アーノンクール
4代目もチェリストで、著者は息子に獅子頭がデザインされた引き継がれたチェロを譲っていますが、息子は国立歌劇場には所属していませんから、当然ウィーンフィルには入団していません。息子のマティアス・バルトロメイはソロのチェリストとして活躍しています。いや、最近はクラシックの世界より、「バルトロメイ・ビットマン」としてジャズやロックの世界で活躍しています。いえば「2チェロズ」と同じような位置付けですな。
そんなことで、フランツは在りし日のバルトロメイ家とウィーンフィルの関わりを本として残したということでしょう。ここで語られているウィーンフィルはその華やかな面の歴史とともに、その舞台裏についても書かれています。なにしろ、100年以上ウィーンフィルと関わっているわけですから、マーラーを始め歴代のクレメンス・クラウス、クナッパーツブッシュ、カール・ベームなどが登場します。そして、60年代のカラヤンとの確執も赤裸々に描かれています。個人的にはベルリンフィルがグラモフォン、ウィーンフィルはデッカという住み分けはウィーンフィル側から望んだことという記述がありそのしたたかさにニンマリしました。
ウィーンフィルの母体は国立歌劇場ということで著者の視点もオペラが中心にあります。その視点から派生して室内楽の世界にも興味を広げて活躍していましたから、そういう部分も書かれています。ウィーンの音楽寺ジョゥが窺い知れていいですねぇ。また、随所に指揮者の似顔絵が描かれています。これも作者の手になるものです。カルカチュアされていてなかなか飲み物です。
さて、このバルメトロ石のインタビューの映像がNHKに残されていますので貼り付けておきます。