グルダ、スワロフスキー
自由なモーツァルト
曲目/モーツァルト
ピアノ協奏曲 第21番 ハ長調 K.467
1. Allegro maestoso 15:10
2. Andante 6:14
3. Allegro vivace assai 6:27
ピアノ協奏曲 第27番 変ロ長調 K.595
1. Allegro 12:59
2. Larghetto 6:10
3. Allegro 9:06
ピアノ/フリードリヒ・グルダ
演奏/ウィーン国立歌劇場管弦楽団
指揮/ハンス・スワロフスキ
録音/1963/06/06日 ウィーン
Concert Hall SM-2313
このレコードは今回捕獲したものの中でピカイチの掘り出し物です。こんな録音が1960年代に存在していたとは驚きです。しかし、ジャケットはいい加減なもので、左下には「full STEREO」の表示があるのに右下のレコード番号はM-2319とあり、これはモノーラルのレコード番号なんです。ジャケット裏には正式なSM 2319の表示になっています。
まあ、聴いていての驚きはピアノ協奏曲第21番の方が大ききく、第一楽章冒頭からオーケストラが前奏の主題を提示しているところで、通常はないピアノのアドリブが入ってくるので少々戸惑います。今となってはジャズに造詣の深いグルダですからこういうのもさもありなんと納得してしまいますが、当時はどう評価されたんでしょうなぁ。それでも、ハンス・スワロフスキーの指揮といいウィーン情緒たっぷりの演奏で思わず顔がにんまりしてしまいます。
まあ、コンサートホールの録音ですから録音自体はちょっと貧弱な響きがします。何しろオーケストラはウィーン国立歌劇場管弦楽団との表記がありますが、この当時のオケはフォルクスオパー管弦楽団と混同されたものが多々あったように思います。確かにオーケストラの弦の響きが薄いようにも感じられますが、モーツァルト時代のオーケストラは室内管弦楽団に毛の生えたもの程度だったので帰ってこの響きの方がモーツァルト時代をホア仏としているのかもしれません。以前記事にした岩城宏之氏が振ったウィーン国立歌劇場管弦楽団のレコードては楽譜には色々な指揮者の書き込みがあったと書かれていますのでオケは間違い無いでしょう。その体でいくと録音会場は録音時期が近接していますから「バイヤリッシュ・ホール」なのかもしれません。音響効果は良いホールのようです。
第二楽章もグルダの即興は冴え渡っています。何しろあるべきピアノ・ソロの第1音が出てこないぞと思うと、相当に遅れて、リズムを引きずって思いっきりルバートがかかって登場します。言って見ればジャズの即興演奏のようなノリの演奏になっています。まあ面白いったらありゃしない。まあ、そういう自由な演奏をサポートしているハンス・スワロフスキーも大したものです。四角四面の教師じゃなかったんですなぁ。普通の「短くも美しく萌え」を硬いすると裏切られます。
第三楽章もピアノが自由に跳ね回ります。決して最初に聞く演奏ではありませんが、モーツァルトが多分自分でピアノを弾いたら、多分こういう演奏をしたのではないかと思ってしまいます。こういう演奏は最近ではツァハリアスのもので感じたことはありますが、ここまで自由な演奏はありません。
この21番に比べると第27番は幾分おとなしめです。それでもオーケストラの序奏を待ちきれず冒頭からピアノが絡んできます。ただ、この曲、もともと虚飾を取り去ったようなものです。たしかに「装飾音」は聴かれるけれど、ハ長調協奏曲ほどの衝撃は感じません。そっと抑えたような調子で始まりますが、やがて抑えきれない歌心が溢れてきて、どんどん楽しくなってきます。オーケストラの響きはほぼワンポイントのような収録ですが、ピアノは結構オンマイクで収録されています。そのため、力強い打鍵が炸裂します。コロコロと転がるグルダの音色は美しいのですが、それも意識させないような「自然さ」があり、楽しんでモーツァルトの音楽を弾いている様が感じられます。グルダは早めのテンポで、全体としてはさらっとこの白鳥の歌とも言える27番を進めていきます。しかし、最後に仕掛けがあり、オーケストラのコーダにさりげなくピアノの装飾音を加えています。粋ですねぇ。
第2楽章も早めのテンポで進めていきます。本来はラルゲットで晩年特有の静謐な美しさを持つ楽章ですが。グルダのそれは異質のもので淡々とした表現の中にモーツァルトの音楽の持つ楽しさが溢れています。まさに、「哀しみよさようなら」とでもいいたげな表現で音楽を組み立てています。普通のプロデューサーならこんな演奏ならストップさせてしまうのでしょうが、コンサートホールのスタッフはウィーンのこういう響きを求めていたんでしょうなぁ。
終楽章は、軽快なロンドの主題で始まりますが、第二楽章からの流れの中ではテンポは中庸でまるでアタッカで繋がっているような始まりです。この主題は歌曲「春への憧れ」(K. 596)に転用されたぐらい有名ですが、グルダはあまり急ぐでもなく、デリケートに春の喜びを歌います。中庸なテンポで、流れがとても自然です。こんなモーツァルトならずっと聴いていたいですなぁ。そして、こういうピアノをスワロフスキーはバックで出しゃばらずサポートしています。これで音質が万全なら超名演として進められるんですがねぇ。この時グルダ若干33歳です。