バルビローリのシューベルト
曲目/シューベルト
交響曲第9番ハ長調 D.944 「ザ・グレイト」
1.Andante - Allegro Ma Non Troppo 14:41
2.Andante Con Moto 14:24
3.Scherzo (Allegro Vivace) & Trio 11:00
4.Finale (Allegro Vivace) 12:39
指揮/ジョン・バルビローリ
演奏/ハレ管弦楽団
録音/1964/06/02,03 キングスウェイ・ホール ロンドン
P:ロナルド・キンロック・アンダーソン
E:クリストファー・パーカー
新星堂 SAN-2(東芝EMI)
昨日に引き続いて新星堂から発売された1000円盤シリーズで、バルビローリの「ザ・グレイト」を取り上げます。1970年の大阪万博の来日直前に亡くなってしまい、日本では彼の指揮姿をついに見ることはできませんでした。まあ、それもあり日本でのバルビローリの評判はあまり芳しいものではありませんでした。このシューベルトの「ザ・グレイト」も彼が録音した唯一のシューベルトの交響曲です。そう、バルビローリは「未完成」は録音を残していないんですなぁ。
この新星堂から発売されたシューベルトは初のCD化でした。そして、この1000円盤シリーズではこの一枚が唯一のバルビローリの録音でした。曲目、演奏者も注目でしたので入手した一枚です。
さて、シューベルトの番号付き交響曲は様々な呼ばれ方がされておりこの「ザ・グレイト」も「7番→9番→8番」という形で変化している。そして、2000年台に入って現在は8番とされていますが、それ以前の表記は9番とされていることが一般的なので、D.○○○の表記の方が間違いがないでしょう。この「ザ・グレイト」はD.949というドイチェ番号が割り振られています。
バルビローリは「ザ・グレイト」を2回録音しており、今回の演奏は2回目のステレオ録音でのものが採用されています。演奏時間は約53分で、悠然としたテンポで演奏するバルビローリらしい運びとなっています。この第一楽章のテンポ設定がバルビローリのスタイルと合っていたんでしょうなぁ。このゆったりとしたテンポ感は1953年録音の旧録音でも変わっていません。そのくせ、全体では5分ほと短くなっていますから後半はちょっと早めのテンポが昔のスタイルだったのでしょう。
この曲、小生のディフェクトスタンダードはまだこのブログでは取り上げていませんが、ヨッフム/バイエルン放送の録音です。冒頭のテンポ感はよく似たものですが、ヨッフムは途中でテンポを速くして音楽のメリハリをつけています。ただ、このバルビローリは第一楽章全体をほとんどイン・テンポで押し切っています。そんなところはスケール感でちょっと損しています。ただ、このころのハレ管弦楽団は弦の厚みはややありませんがいい演奏をしています。冒頭のホルンからしてろうろうと吹いていて気持ち良さそうですし、トロンボーンも快調です。旋律が、いかにもバルビローリ好みの蕩々としたものです。ただ、この時代の録音に言えることはダ・カーポの繰り返しが省略されていることで、最近の演奏では全体で60分を超える演奏も出現しています。
第2楽章は、木管の活躍する楽章で、静かな旋律と弦の力強い対比が魅力となっています。ここでもハレ管弦楽団のソロパートは見事です。このころのレベルの高さが分かります。バルビローリはさらっとした肌触りながら部分的には明快にアクセントをつけてもっと、第一楽章と規模的には変わらないこの楽章を冗長的に陥らない工夫をしています。
第3楽章はもややゆっくり目のテンポで、三拍子のリズムの揺れがメロディの心地よい世界を形作っていて目が微睡んでしまいます。
終楽章は、中庸からやや遅めのテンポでむしろ冷静に、旋律をたしかめながら進めています。この悠々たるテンポ感がバルビローリの特徴なんでしょう。後半、ややダレる演奏が多い中、ここまで徹底して悠々たる演奏でバルビローリ節とでも言える響きを醸し出しているのは見事です。この曲には決定的とも言えるフルトヴェングラーの最晩年のスタジオ録音がありますが、それとは異質のアプローチでこの曲を名演に作り上げています。