公事宿 裏始末5 追っ手討ち | geezenstacの森

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公事宿 裏始末5

追っ手討ち

 

著者/氷月葵

出版/二見書房 二見時代小説文庫

 

 

 理不尽に養父母の命を断たれた秋川藩の若き剣士は、矢野数馬と名を替え江戸に逃れ、公事宿暁屋で筆耕をしつつ、藩の内情を探っていた。折しも「棟上げ祝い事件」の公事に走り回る数馬のもとに従兄の新一郎が現れ、国元で大殿の隠し子が再浮上し、落胤たる数馬に江戸家老一派から刺客が向けられたという...。---データベース---

 

 大団円の最終巻です。今回の公事宿に持ち込まれた事件はさもありなんというものです。それに絡む木材問屋の悪辣な嫌がらせが浮上してきます。まあ、こういう構図は現代でもあるもので、自分たちの利権を守るために新参者をいじめるというものですな。こちらは公事宿の本来の仕事ですが、それと並行して矢野数馬の身辺も騒がしくなってきます。対峙する江戸家老はとうとう最後まで姿を見せませんが、ストーリー的には愛おしく思う娘の七重に配慮してのことでしょう。その代わり、勘定方を預かっている加瀬嘉門という男がクローズアップされます。そして、この男の隠し屋敷を探ることで二重帳簿を探し出すことにします。

 

 一方大殿から硯を貰い受けることになっていた数馬は、武部の計らいで大殿と対面することになってしまいます。ここら辺の話、ちょっと頻繁になりこの間での終了を焦っているような進み具合です。本来なら澤田ふじ子さんの公事宿シリーズを参考にしてもっと息の長いストーリーにして欲しかったところです。

 

 この巻では、今までほとんど活躍しなかった抜け人の伊助も活躍し、加瀬嘉門の屋敷に潜入し帳簿を盗み出します。本編の公事仕事は、「棟上げ祝い事件」に端を発したものですが、探っていくと当事者同士が実の兄弟であることがわかってきます。そんなことで本編は大岡越前の裁可で見事なお裁きが披露され一件落着です。で、裏始末は付け足しのような形になってしまっているのがちょいと残念なところです。

 

 お家騒動の結末の方は、江戸家老の一派が数馬暗殺を企てますが、それも暁家の面々の活躍でことなきを得ます。そして、盗みだした帳簿が証拠となり、黒幕の江戸家老と勘定方の処分も蟄居ですみます。この結末、内紛を表沙汰にも出来ないからしょうがないのかな。もっと重い沙汰でも良かったとは思いますが、七重や現藩主の奥方の父親だという現実もありますから、こんなものでしょう。そうそう、七重は望月家との縁を切るために武部の養女になります。こうして、形の上では数馬との婚姻に支障はなくなります。数馬は若殿の弟君ということで名を実一と改めます。

 

 残念ながら、ストーリーはこの二人が暁屋で婚姻の式を上げるというところで終わります。この公事宿シリーズ、せっかくの裏家業が活かされていないので、スピンアウトの形で再開されるといいのですがねぇ。