公事宿 裏始末4
孤月の剣
著者/氷月葵
出版/二見書房 二見時代小説文庫
秋川藩の若き剣士矢野数馬は養父母の命を断たれ江戸に逃れて、馬喰町の公事宿暁屋に居ついている。暁屋の養子友吉はふとしたことから品川宿の口入れ屋徳兵衛と出会い、十五年前、十歳の時にこの男に売られ、弟妹と生き別れになったことを思い出した。友吉は弟と妹を捜すべく、公事師らと、悪兵衛こと徳兵衛に迫る。---データベース---
10年以上前に遡る人探しが二件登場します。一つは公事宿の息子でもある友吉、もう一人は火事場から助け出された八百屋の息子、長七です。暁家の矢野一馬と佐内は、あくどい口入屋にまつわる人探しに奔走します。難儀しますが、二つの事件は同じ口入れ屋で扱われていました。そして、場所も品川宿だということがわかります。そして、友吉はその口入れ屋徳兵衛が自分たち兄妹が売られた張本人だと知ります。最初友吉は血を見るだけで震え上がる人間でしたが、徳兵衛の取り巻き連中と対峙し怪我をして自分の血を見て奮い立ち、血を恐れなくなります。
そして、左内と尋ねた旅籠で生き別れの妹を見つけ出します。こうして、影の薄かった友吉が一皮むけてたくましくなって裏始末にも関わることにまで、話は進展していきます。
一方、数馬に関する秋川藩では、武部が粋な計らいで、庭に出てくる父親でもある大殿との顔合わせを企みます。このことで、数馬はいよいよ自分の立場をわきまえることになります。
さて、最後は裏家業で悪徳口入れ屋の徳兵衛への天誅です。必殺仕置き人スタイルの千枚通しが活躍します。そこで取り戻した金で、品川宿で飯盛女をしていたおなみを身請けします。なんとこの女は友吉の昔し生き別れになっていたおときだったのです。
無事妹が見つかり最後はかなり心温まる展開です。おときことおなみは世禄という飛脚と祝言を挙げることになり、やおやの長七は実の父親には失望しますが、母親にも再開することができ、自分の不甲斐なさとともに、自分の生きる道を見つけます。少々うまく行き過ぎですが、この巻は公事宿としての活動より、人探しの事件としてめでたく解決します。タイトルとはいささかか離れた内容ですが、一番面白かった巻でもあります。