チェリビダッケ
くるみ割り人形
曲目/チャイコフスキー
組曲 「くるみ割り人形」 Op.71a
1. 小序曲 4:14
2. 性格的な舞曲1. 行進曲: Tempo di marcia viva 2:53
3. 性格的な舞曲2. 金平糖の精の踊り: Andante non troppo 2:54
4. 性格的な舞曲3. ロシアの踊り(トレパーク): Molto vivace 1:12
5. 性格的な舞曲4. アラビアの踊り: Allegretto 5:24
6. 性格的な舞曲5. 中国の踊り: Allegro moderato 1:26
7. 性格的な舞曲6. 葦笛の踊り: Moderato assai 3:22
8. 花のワルツ: Tempo di Valse 7:53
9. Applause 0:32
指揮/セルジュ・チェリビダッケ
演奏/ミュンヘン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1991年2月10日、ガスタイク・フィルハーモニー、ミュンヘン
P:ウィルヘルム・メイスター
E:ペーター・ユッテ
EMI 0856112
このCDはチェリビダッケの「フランス・ロシア音楽集」というボックスセットに含まれている一枚です。ただし、これ一曲しか収録されていないというものです。演奏時間にして30分弱ということで、単独ではCDとして発売されませんでした。2枚組では交響曲第4番と組んで2枚組で発売されています。ただ、このコンビのソースとしてはチャイコフスキーの幻想序曲「ロメオとジュリエット」も存在していますので、なぜこのボックスセットに収録されなかったのかが不思議です。
ここでは単にバレエ音楽という位置付けではなく、組曲としての性格を前面に出した演奏になっています。何しろテンポがやたら遅いので多分普通のバレリーナではこのテンポでは踊れないのではないでしょうか。
まるで別世界の音楽です。冒頭の「小序曲」から遅いテンポで始まります。まるで別の曲を聴いているような錯覚になります。ただ、このテンポに慣れてしまうとほかの曲のテンポも違和感がなくなります。
小序曲など、これ以上テンポが遅ければ音楽が破綻してしまいそうなぐらいのテンポです。でも、このテンポで演奏されると「アラビア踊り」などは今まで聴いたことがないほど幽玄で幻想的な響きにびっくりさせられます。まるで異次元の世界の響きに聴こえ、チェリビダッケのパラレルワールドの世界に迷い込んだような雰囲気に包まれます。
「葦笛の踊り」も普通のテンポの演奏では聞き取れないような旋律にはっとさせられる部分があります。特にトリオの部分のトランペットとティンパニによる旋律は、まるで別の曲のように響きます。そして、最後の「花のワルツ」でも揺るぎない遅いテンポは、「2001年宇宙の旅」の宇宙ステーションのシーンを彷彿させ、そのゆったりとした音楽で悠久の時間の中での漂う世界に連れ込まれてしまいます。
まあ、ひとつ難を言えばライブ録音であるが故のノイズが時々耳につくことでしょうか。まあ、その世界に浸ってみてください。
これを聴いて下の演奏を聴くとまるで別人の演奏を聴いているような気がします。こちらは録音嫌いのチェリビダッケがデッカに残した1948年の録音です。この時はチャイコフスキーの交響曲第4番も録音されていますが、いたってノーマルな演奏で若かりし頃はいたって平凡な指揮者であったことが伺い知れます。