公事宿 裏始末2
気炎立つ
著者/氷月葵
出版/二見書房 二見時代小説文庫
理不尽に父母の命を断たれ江戸に逃れた秋川藩の若き剣士矢野数馬は、馬喰町の「公事宿暁屋」に居つき、公事人からの訴えを目安にまとめる筆耕の仕事にありついた。時には法で裁けぬ悪を討つ裏始末の用心棒にも駆り出される。そんな折、旗本や大店しか相手にせぬ悪名高い四枚肩の医者にからむ公事が舞い込んで…。---データベース---
公事宿 暁屋に筆耕として居着いた矢野数馬は、この巻では四枚肩と呼ばれる悪名高い医者が事件の中心に出てきます。四枚肩とは御典医のように身分の高い医者のことを指し、籠に乗って旗本や大店の商人相手に往診に向かうことからそう呼ばれたということです。その商人の一人から朝鮮人参や「ウニコウル」にからむ公事が持ち込まれます。朝鮮人参はいまでも高価な滋養強壮の薬草という位置付けですが、「ウニコウル」は「一角クジラ」のツノのことです。毒消しの作用があるとされて、江戸時代には重宝された高価な品物であったのです。
そういうものがまともに売られているのならば問題はないのですが、ここではそれに混ぜ物をして処方するという悪徳医師がこの巻の公事に絡んできます。さらにそれだけではなく、最初はまともな処方薬を渡しても、その後は正反対の成分の薬を処方して病気を長引かせて薬代を巻き上げるという行為も暴かれます。さらに、悪徳医師「松庵」は子に恵まれないために商家から薬代のかわりに女手を一人供出を求めていました。
そんなこともあるのかいな、という展開ですが、松庵はこの女子に子供を孕ませます。妻は子供ができなかったのですな。まあ、そんな問題を解決するために主人公の一馬は奔走するのですが、それと並行して出奔した秋川藩に絡んだ展開は急展開します。偽薬の件も旧藩とは少しは関わりがあるのですが、旧藩主派の重鎮が下屋敷を訪れていて、矢野数馬が藩主の隠し子だと見抜いてしまったのです。ちょっと展開が早いなぁと思う所以です。
そして、最後には例によって裏始末があります。この巻も力技でケリをつけてるのがちょっと残念なところですが、暁屋の主はちゃんとくじの戸ごともしているようで、途中で登場する大岡越前守とすれ違いざま言葉を交わす存在でもあることが明らかになります。医者が登場するということで、設立間もない頃の小石川療養所の様子も描写されています。
そういう意味では結構面白い展開なのですが、主人公がご落胤ということで、物語はそちらに引っ張られる要素が強いのが残念なところです。