公事宿裏始末1
火車廻る
著者/氷月葵
出版/二見書房 二見時代小説文庫
秋月藩勘定役の父から家督を継ぐ寸前、その父が無実の罪で切腹を命じられた。さらに己の身にも刺客が迫り、母の命も……。
矢野数馬と名を変えた若き剣士は故郷を離れ、江戸に逃れた。数馬の目が「公事宿暁屋」の看板にとまった。庶民の訴証を扱う
宿である。ふとしたことからこの宿に居つくことになった数馬は……。---データベース---
京都の公事宿を扱った澤田ふじ子さんのシリーズを読んでいて、そういえば江戸のぐじ宿を扱った時代小説を読んでいないなぁと思い、探して見つけたのがこの氷月葵さんのシリーズでした。裏始末というのがちょっと引っかかりましたがとりあえず読んでみることに。
この氷月葵さん、時代小説はこれが最初の作品ということで、ちよっと意外でした。調べると、色々な名前で数々の作品を執筆しているようです。秋月菜央、井水怜、福知怜などのペンネームも持っていてそれぞれ作品をかき分けているようです。で、時代小説は氷月葵(これが本名かな?)で執筆しています。年代的には近しいものを感じます。
初の時代小説ということでいえば、王道を行く設定がてんこ盛りです。2013年には出版されたものですが、反対にちょっと盛りすぎでこの流れで行くとシリーズものとしては長続きしないのではと思っていたら、なんと第5作で最終巻という流れでした。まあ、主人公が元藩主のご落胤ということでは、公事宿の仕事はアルバイトでしかないことがありありと見えていますからしょうがない展開なのでしょう。
江戸の馬喰町を中心に多くが存在した公事宿は200件ほどあったようですが、この小説で登場する公事宿は1件のみで、暁屋といいます。この暁屋は設定では公事宿でもあり旅人宿でもあります。そういう意味では百姓宿ではないため、このショゥ説では百姓は登場しません。おもに町民のみです。そして、ちょっと変わっているのが裏始末をする公事宿ということで、行ってみれは必殺仕置き人の要素を併せ持った宿ということになります。
時代は大岡越前守が登場することから時代は三代将軍吉宗の時代であることがわかります。暁屋の面々は皆一癖のある人物で、この設定をもう少し活かす方法もあろうかというものですが、主人公の設定が災いして話があまり膨らまず、サブストーリーの訪日ヨット重点が置かれすぎているのが残念です。
まあ、この第1巻を読めば、真ん中の間を読み飛ばしても最終巻で充分辻褄は合います。それでも、公事宿のあり方を知るには最適な部分もありますので面白いシリーズではあります。