ザンデルリンクの「英雄」
曲目/
Beethoven Symphony No.3 In E Flat Major, Op. 55, "Eroica" 1. Allegro Con Brio 18:36
2. Marcia Funebre; Adagio Assai 17:31
3. Scherzo (Allegro Vivace ) 6:33
4. Finale; Allegro Molto 13:25
5.Fidelio Overture, Op.72b 6:46
指揮/クルド・ザンデルリンク
演奏/フィルハーモニア管弦楽団
録音/1981/01/08-10、12-17 アビー・ロード第1スタジオ、ロンドン
P:ベアトリックス・ムスカー
E:クリストファー・パーカー
英EMI CDM7 69201 2
ザンデルリンクのベートーヴェンはCD初期に録音されたために本国でもあまり積極的にプロモーションされなかった経緯があってあまり話題になりませんでしたし、日本ではレコードではついに全集で発売されませんでした。2012年にタワーレコードが待望のCD化をして発売しましたが、その際も発売が予告されていながら、2枚目第4番冒頭の音が途切れるトラブルのため、発売が延期されていたという曰く付きの全集です。
ただ、個人的には好きな全集で、1990年代にDisky classicから発売されたものを愛聴しています。ただし、これはとんでもない編集で、交響曲第1番がCDまたがりという編集でした。まあ、この当時はこういう編集盤が多々あり、初出のクーベリックのドヴォルザークの交響曲全集もこういう作りなので慣れていました。レコード時代なんてさらにざらでしたからねぇ。
この録音の背景については以前ザンデルリンクの「田園」を取上げた時に詳しく書いていますので、ここではこの「英雄」について取上げます。このCDは英EMIのSTUDIOシリーズでで「田園」とともにリリースされた貴重な単品CDです。CD化は1988年になされています。これらの演奏があまりにも素晴らしかったので、のちに発売された全集も即買いしたの話覚えています。このどっしりとしたオーケストラの響きはクレンペラー亡き後の後継者に相応しいものでした。小生は今ではかなりのクレンペラーの演奏も所有していますが、レコード時代はベートーヴェンの交響曲全集ぐらいしか所有していなくで、そのさえない焦点の呆けたような録音と演奏に嫌気がさしてそのほかにはテワ出さなかったものです。
それが同じ、フィルハーモニア管弦楽団からこれほどドイツ的な響きを引き出しているザンデルリンクに驚愕したものです。もちろん、EMIの録音ですからレコード時代には手を出していません。積極的にEMIの音を聴くようになっちのはCD時代になってからでした。
EMIがデジタル録音を開始するのは1979年7月で、その第1団はプレヴィン/ロンドン響のドビュッシー作曲の「管弦楽のための映像」及び「牧神の午後への前奏曲」でしたが、この録音はその翌年になっています。ザンデルリンクのベートーヴェンは集中的に録音されています。単発で発売された「田園」も同時期に録音され、他には第2、7、8番がこのアビー・ロードスタジオで収録されています。
さて、このザンデルリンクのベートーヴェンの「英雄」、テンポは悠々としています。フィルハーモニア管は当時はムーティが人気取りのために初代音楽監督の地位にありましたが、ムーティはフィルハーモニアとはベートーヴェンの交響曲は録音していません。前年の演奏会で好評だったザンデルリンクはその勢いをかってフィルハーモニア管とこの録音に臨んだのでしょう。自身もベートーヴェンの交響曲全集は録音していませんでしたからねぇ。ただ、EMIは本気ではなかったようで最初のセッション録音はBATに委ねていました。
全体に遅めのテンポでそれまでの時代を総括するような伝統的なベートーヴェン像を構築しています。昨今のピリオド奏法をメインに据えるオーケストラの演奏とは一味違います。やはり、これはクレンペラーの系譜につながる演奏と捉える方があっているのでしょう。一楽章冒頭は、クレンペラーよりは幾分早いテンポで和音を鳴らし開始します。そういう意味では決して古い感性一辺倒ではないようです。当時、ザンデルリンクは68歳で、一番脂の乗っている時期でした。ただ、第一楽章全体は全体的にじっくりとしたテンポで、巨大な音楽を作り上げています。スコアをじっくり読み込み、リピートは確実に実施し、コーダのトランペットも改変していません。それでいて、全体は18:36かけて演奏しています。まあ、上には上がいるもので、これ以上の遅い演奏としてはチェリビダッケや、バレンボイム、ショルティが居るにはいますが、ただ、惜しむらくはアビー・ロードスタジオでの収録で、クリストファー・パーカーが録音エンジニアとして関わっているにもかかわらず、残響がやや多すぎ、音の芯がぼやけているのが残念です。
第二楽章も地を這うようなテンポでオーボエのすすり泣くような響きが印象的です。この2つの楽章で演奏時間は36分を超えています。ベートーヴェンの交響曲がこの作品でいかに巨大化したかがわかろうものです。
第三楽章以降はだれてしまう演奏が多いのですが、そこはザンデルリンク、しっかりと落ち着いたテンポでどっしりとした構えで進んでいきます。ここでも言えることですが、各楽器のバランスがいいですなぁ。無理して特定の楽器を強調することがありません。全ては調和のバランスで音楽が組み立てられています。そのため、安心して聴いて入られます。
これに対して、「フィデリオ序曲」はちょっと癖のある演奏で演奏に伸び縮みがあり、ややゴツゴツした感じがあります。最初はやや遅めのテンポで始まり、最後のコーダに向かっては結構早めのテンポに変わります。オペラの序曲としての躍動感とはちょっとかけ離れた演奏で、こちらは少々残念です。