果つる底なき
著者:池井戸潤
出版:講談社 講談社文庫
「これは貸しだからな。」謎の言葉を残して、債権回収担当の銀行員・坂本が死んだ。死因はアレルギー性ショック。彼の妻・曜子は、かつて伊木の恋人だった……。坂本のため、曜子のため、そして何かを失いかけている自分のため、伊木はただ1人、銀行の暗闇に立ち向かう!第44回江戸川乱歩賞受賞作---データベース---
「果つる底なき」。この本のタイトル通りの物語であった。終わりは果てしなく遠いということを幾度となく感じさせられ、いつの間にか、その終わりに立ち向かっていく主人公を応援している自分がいました。デビュー作だそうですが、第44回江戸川乱歩賞受賞作ということでは期待を裏切りませんでした。
池井戸作品アルアルで主人公は組織内のアウトサイダー的人物。で、その主人公を潰そうとする悪役の上司、の黄金パターン。彼が友人行員の不審死から独自に行動を始めるわけですが、どうにも警察がヘッポコで、主人公側にも仇側にも、少々都合が良すぎな部分はありますが、まあ多少は目をつぶりましょう。金融界には全くの門外漢である小生が読んでも、つっかえるコトなく読めるっていうのは、ある意味凄いと思います。
先に読んだ「仇敵」はそれ自体としてはTVドラマ化されていませんが、もしドラマ化されたら小林稔侍さんあたりが主人公(もうちょっと若いほうがいいか?)なら面白い作品になるだろうと思われますが、この作品はもう少し設定が若いので、今なら小栗旬あたりが適役なのでしょうか。と入っても2000年にドラマ化されたときは渡辺謙さんが主役でした。
今とは違う正統派ミステリー小説と言っても過言ではない池井戸作品がここにあります。個人的には松本清張の流れをくむハードボイルドタッチの作品と言ってもいいでしょう。とにかく主人公が、まるでミステリー小説に出てくる私立探偵さながら歩き回って証拠を集める姿が印象的です。 組織の流れに抗う銀行員というスタンスは当時から健在だったようで、そこに半沢直樹シリーズにみる主人公気質をかいま見ることが出来ます。 全体的にどんよりと暗い雰囲気で進んでいくストーリーはノーサイド・ゲーム等の企業系小説では味わえない仄暗いミステリー感を味わえてオススメです。
ただ、一介の銀行マンとしての主人公の活躍の割に警察の動きがもっさりとしている点は歯がゆくてしょうがありません。冒頭、主人公の同僚が車の中でアナフィラキシー症候群のために死亡していますが、この死亡の原因すら警察の捜査はあやふやです。
1990年代のバブル崩壊の影に巣食う銀行のダークな一面に切り込んだ大作で、ある企業の倒産とそれに絡む再建策の影に潜む不自然な金の流れにメスを入れる主人公ですが、その影で多数の死者が出ます。ここでも警察の動きは鈍重でヤキモキさせます。さらにやや過剰サービス的に殺害された同僚の妻や取引先の娘が元恋人である設定がなされていることです。ちょっとご都合主義的なところが鼻につかないでもありません。ただ、ドラマとしてはこういう設定のほうが視聴率は取れるんでしょうなぁ。