拷問蔵
公事宿事件書留帳3
著者:澤田ふじ子
出版:幻冬社 幻冬舎文庫
人を殺めた疑いで捕らえられた男の無実を信じ、菊太郎が洗い直した事件の裏には、世間や役人の偏見があった。怒る菊太郎がつきとめた真犯人の正体とは? 連作時代小説シリーズ第三作。---データベース---
単行本はそれほどでもなかったのですが、この文庫本の表紙はドン引きします。でも、内容的には思ったよりも残酷じゃなくてよかったです。江戸時代は、拷問で自白させることが一般的で、逆さ吊りで水の中に漬けるとか、三角木の上に座らせてからの膝の上に石を抱かせるという攻めが使われました。そのため、苦痛に耐えかねての冤罪が多かったようです。タイトル作を含め、以下の作品が収録されています。
拷問蔵
京の女狐
お岩の最後
かどわかし
真夜中の口紅
中秋十五夜
京都という天皇の居住する世界は、江戸とは違った世界が存在します。優雅な色香を漂わす初老の女と二人の美しい娘にたぶらかされる男たちの悲劇を描く「京の女狐」は京の都のそういう世界の裏側を描いています。
今作品の中では、「お岩の最期」は金貸し老女の話ですが、一番心に響くものがありました。借りたものを返すということは当然なのですが、その借りたものを返さないところに悲劇が起こります。金貸しのお幅ですが、主人公の掬太郎がその素性を調べると、人に<烏金>を貸して稼ぐお岩が、本人は粗末な小屋に住みながら実は大枚の金子を喜捨して孤児たちを孤児たちを養っているという真の姿を目にします。そのギャップの中で老女が殺されるということで、掬太郎は立ち上がります。ただ、展開は面白いのですが、最後の結末はあまりにもあっさりしているのでちょっと拍子抜けしてしまいます。
「かどわかし」には公家たちも登場します。これも京都ならではの設定の中で事件が発生します。公家対奉行所との確執の中での展開に展開を期待してしまうのですが、そこに絡む陸尺たちの人間性とのギャップに戸惑ってしまいます。
公事宿事件書留帳というシリーズ物の割に、その鯉屋を舞台にした話しがちょっと影を潜めてしまったのかなぁというのがこの間の正直な感想です。 公事宿が扱う、いわゆる民事事件じゃあ、本来斬った張ったがある訳じゃないんで、菊太郎の活躍の場がないのか、どう見ても刑事事件がらみで掬太郎が絡んでいく事件が多くなっています。 まあ、奉行所はおろか所司代にも顔が利きという設定ですから、おおっぴらに奉行所の最良案件に首を突っ込んでしまいます。
身分的には居候の用心棒ですから、市井の人たちとも気脈を通じている点は物語の展開にプラスの設定にはなっていますが、全体話通しての鯉屋主人の時折の悪口と、なかなか進展していかない。お信との仲が気になります。その辺りの引っ張りにも釣られて次巻楽しみでもあります。