木戸の椿 公事宿事件書留帳2 | geezenstacの森

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木戸の椿

公事宿事件書留帳2

 

著者:澤田ふじ子

出版:幻冬社 幻冬舎文庫

 

 

 京都東町奉行所同心組頭の家に長男として生まれながら訳あって京の公事宿(訴訟人専用旅篭)「鯉屋」に居候する田村菊太郎。武士を捨てながらも、同心の弟を助け事件を解決していく。母と二人で貧しく暮らす幼女がかどかわされた。菊太郎が突き止めた犯人の意外な目的とは?「木戸の椿」ほか、全七編を収録した連作時代小説シリーズ第二作。

 

 江戸時代というとなんか江戸だけがクローズアップされてしまい、時代小説のほとんどがほぼ江戸の八百八町を中心としたものが占めていますが、そうではないぞという反骨精神のような物語が、この澤田ふじ子さんの書く時代小説です。そして、舞台が京都ということで馴染みのある地名で舞台がすっと頭の中に浮かんできます。

 

 この本の章立てです。

 

木戸の椿

垢離の女

金仏心中

お婆とまご

甘い罠

遠見の砦

黒い花

 

 一応事件が起き、それを主人公の田村菊太郎が名推理を働かせて鮮やかに解決していく展開に江戸の粋とは違う風情が新鮮です。

 

 本書のタイトルでもある「木戸の椿」には「吉野間道」という名物裂が登場します。なんでも茶の湯の世界では茶入れの仕覆に仕立てられる名物裂のようです。それにまつわる蘊蓄も学べる一編になっています。それを知らずに子供の「でんち」に仕上げてしまったために怒った人さらいのストーリーです。そうそう、「でんち」とは名古屋では「どてら」のことを指します。この小説でその言葉を発見した時は名古屋の方言だと思っていたのですが、実際はそうではないようで、西日本で使われる「でんち」 は殿中羽織に由来しているとされ、岐阜、愛知の中京から京都、大阪の関西、そして四国一帯にかけて使われているようです。

 

 

 このように、それぞれの作品にもう一つ味を加えているのが作者が自ら述べるところの「京都の知恵」「京都独特の生活文化」でしょう。また作者の絵画や美術工芸品に対する造詣の深さも所々に表れていて、ストーリーを楽しみつつ京の文化に触れ、また美術への知識も得られ、読んでて飽きさせません。

 

 七編の物語には日本の芸術や文化が描かれていて、この時代の京都に彩りを添えています。さりげなく商家の襖にかけられている描写で、狩野探幽の「菊図」や酒井抱一の「花鳥図」などがかけてある描写など女性目線の細やかな描写に気品が漂います。決して期待を裏切らない一冊です。

 

 結構以前の作品ですが、澤田作品の原点がわかるようなシリーズです。