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オルゴール修復師・雪永鋼の事件簿

 

著者:太田忠司

出版社:光文社 光文社文庫

 

 

 雪永鋼は、腕のいいオルゴール修復師。限られた仕事のみを受け、傷ついた心を抱えながら愛犬ステラと静かに暮らす日々だ。そんな彼の前に現れた一人の女性。父の形見のオルゴールが奏でる曲が、なぜか昔とは全く違うものになってしまったというのだが…(「夏の名残のバラ」)。オルゴールを巡る謎と人の心の不思議を解き明かしてゆく、切なくも優しい連作ミステリー。---データベース---

 

 人物の設定が特殊です。オルゴール修理師でありながら肉体的には躁鬱病を抱え、この小説の中では薬が欠かせない設定になっています。それもリアルな抗うつ病の薬がたくさん登場します。主人公はその薬を飲みながら人との関わりを極力避けた状態でオルゴールの修理をしていきます。

 

目次

夏の名残のバラ

秋の歌

冬の不思議の国

春の日の花と輝く

わが母の教えたまいし歌

 

 この小説は2004年から6年にかけて「ジャーロ」に発表されたものを単行本化したものです。そして、ここで登場するオルゴール、我々が普段目にするおもちゃのオルゴールではありません。一体が何十万もする品々ばかりです。第一話に登場するリュージュ性のオルゴールのチャイコフスキーは以下のような曲が流れます。残念ながら小説に登場する144弁の音源はありませんでした。こちらの曲目は、

①おもちゃの兵隊のマーチ 

②花のワルツ

 ③こんぺいとうの精の踊り
で本に登場する曲目とちょっと違います。

 

 

 そして、こちらがいらす主の父親が泣きながら聞いていたという「庭の千草」です。

 

 

演奏している曲は、

1.Il Trovatore / Giuseppe Verdi(トロヴァトーレ/ / ジュゼッペ・ヴェルディ

2.The Last Rose Of Summer(庭の千草) 

3.Carmen-Toreador/G.Bizet(ビゼーのカルメンより「闘牛士の歌」)

です。ただ、日本でのタイトルは「庭の千草」ですが、元タイトルは「夏の名残のバラ」でしょうの定とるそのものです。

 

 太田忠司師の小説ですから基本推理小説ですが、そこはオルゴールにまつわる謎解きになっていて、それに端を発した人生のドラマを浮き彫りにしていきます。主人公が鬱病を抱え人との接触を拒みながらも、同時に美しい音を奏でられなくなったオルゴールを彼自身が患者と向き合う医師のように一心に修復し続ける姿が描かれているからでしょう。

 

 専門用語が遠慮なく飛び交うのも、如何にオルゴールが繊細な技術の結晶であるか、そして人の心もまた非常に複雑で、小さな櫛歯ひとつ欠けても正しい音色にはなれない儚い存在なのだという現実を感じさせてくれます。それまで女っ気とは全く無縁の主人公鋼に、冒頭から令嬢の睦月が絡んできますが、この睦月の家族とはこの小説では大きく絡んできます。そして、睦月の兄弟にもまた鋼と同じ病の人間がいることで、ちよっと人間関係がインンツな雰囲気で進んでいきます。

 

 ただ、そんな中にももう一人、喫茶店の店員の女性が絡む事件もエピソードとしては登場し、それが続編の小説に大きく絡みます。