琥珀のマズルカ | geezenstacの森

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琥珀のマズルカ

 

著者/太田忠司

出版/講談社 講談社ノベルス

 

 

 肉体から離れた魂を元に戻すことが出来る特殊能力の持ち主――整魂師。その1人、桃内大輝は、警察官という職業の傍ら彷徨える魂を救っていた。ある日、担当した事件で、手に負えない魂に出会ってしまう。この状況から被害者を救えるのはただ1人、“夢追い”のマズルカのみ。ただし、彼が依頼を引き受けてくれるか否かは定かではない。一縷の望みを抱き、マズルカのいる、とあるバーを訪れた桃内だったのだが……。---データベース---

 

  摩訶不思議な小説です。SFを読んでいると、あまりうろたえることはありませんが、普通の人は少々驚くでしょう。パラレルワールドの物語で、離魂(肉体から魂が抜ける)状態が医学的に証明された社会で、主人公の桃内は整魂師(肉体から離れかけた魂を引き戻す力)の刑事という設定です。いきなり、冒頭からファンタジー感丸出しの展開です。それが冒頭で描かれますが、これがこの小説全体のイントロにもなっています。ただ、主人公の桃内が整魂師として活躍するのはこの冒頭のエピソードだけです。

 

 この後、事件の被害者が離魂していると上司から呼び出されるのですが、被害者の女性は完全に魂が抜けた状態になってしまっていました。こうなると手におえるのは「夢追い」だけになります。「夢追い」は抜け出した魂を追いかけて見つけることができるのです。桃内はマズルカと名乗るその「夢追い」ができる青年に魂を呼び戻すよう依頼します。こうして、いくつかのエピソードを通じて二人は協力して事件の解決に取り組んでいきます。

 

目次

第1篇  in Court 

第2篇  in Fort

第3篇  in Cilvert

第4篇  in Rampart

終篇

 

 いくつもの事件がつながった連作で、マズルカが事件を解決しながら、失われた妹の魂とそれを奪った「全能者」を追いつめていきます。一話ごとでも一応完結しますが、全体としての流れは全編を読まないと楽しめないでしょう。

 

 刑事ものの殺人事件として物語は進んでいきますが、事件の特殊性ということでは「夢追い」でなくては解決しません。事件の特殊性としては殺されるのは若い女性で。表面上は絞殺です。最初は独り住まいの女性が連続して殺されますが、ある事件で姉妹のうち妹だけが助かります。そこにはある理由があります。この点に気がつけば、事件はすぐに解決しそうなものですが、ここに

「離魂」というキーワードが聴いてきます。ただの推理小説なら簡単に解決してしまうところにこの問題が絡むところがこの小説の見せ場です。

 

 ただ、これが成功しているかといえばちょっと疑問符がつきます。全体的にあっさりしすぎてる感があり、サイドストーリーの膨らみがちょっと足りないかなぁというのが今回の率直な感想です。以前このブログでは「探偵・日暮旅人」のシリーズを取り上げていますが、設定としてはこのシリーズ物の小説によく似ています。

 

 主要な魅力あるキャラたちが出てるのに敵がいなくなっては続刊は期待できそうもないのが残念です。