ラトル/ブレンデルのベートーヴェン | geezenstacの森

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ラトル/ブレンデル

ベートーヴェン/ピアノ協奏曲第4番、5番

 

曲目/

ベートーヴェン ピアノ協奏曲 No.4 ト長調 Op.58 (1806) 

1. Allegro moderato    17:45

2. Andante con moto    5:03

3. Rondo. Vivace    10:20

ベートーヴェン ピアノ協奏曲 No.5 変ホ長調 Op.73 「皇帝」 

1. Allegro    20:54

2. Adagio un poco mosso -    8:19

3. Rondo. Allegro    10:43

 

ピアノ:アルフレッド・ブレンデル
指揮:サー・サイモン・ラトル
演奏:ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音:1997年12月, (4番), 1998年2月(5番),  ウィーン楽友協会・大ホール

 

フィリップス 4780349

 

 

 ブレンデル4回目の全集録音の一枚です。1回目はまだフィリップスと契約する前の1960年代はじめにヴォックスに、2度目は1970年代にハイティンク/ロンドンフィルと、1980年代にはライブでレヴァイン/シカゴ響と、そして1990年代にこのラトルとウィーンフィルで録音したということになります。それぞれの年代で全集録音をしたピアニストはこのブレンデルぐらいしかいないのではないでしょうか。

 

 一方ウィーンフィルは1950年代から、イッセルシュテット/バックハウス、70年代のシュタイン/グルダ、ベーム、ヨッフム/ポリーニ、80年代のメータ/アシュケナージ、そしてバーンスタイン/ツィメルマンとのその時代ごとの豪華な組合せで、数々の全集を完成させてきています。さして、20世紀最後にこのブレンデルとの全集を完成させたというわけです。

 

 個人的なことを言えばこの録音ラトルがフィリップスから発売されていたとは知りませんでした。ラトルといえばEMIと専属契約をしていましたから、その後のベルリンフィルとのレコーディングも全てEMIから発売されていましたからねぇ。まあ、確かにここでの主役はブレンデルであり、そういう意味でフィリップスに発売権を譲ったというところが正解なのでしょう。また、このラトルとブレンデルの共演でベートーヴェンが録音されたことが景気で、2002年からベルリンフィルのシェフになっていたラトルは2002年4月29日から5月17日にかけて、ウィーンのムジークフェラインザールでおこなわれたベートーヴェンの連続演奏会をライブ収録して全集を発売しています。これはベーレンライター新番を用いたピリオド奏法を取り入れた刺激的な演奏でしたが、録音はウィーンフィルから持ちかけたというから驚きます。

 

 さて、話がずいぶん横道に逸れていますが、この録音です。実はこの形で国内盤は発売されていません。この形での発売は「THE ORIGINALS」シリーズでの発売と、のちに「フィリップスオリジナルコレクション」というボックスセットに納められたものしかありません。

 

 何はともあれ、まずは「第4番」です。ピアニストからすると一番好きなベートーヴェンのピアノ協奏曲の筆頭に挙げられる曲です。このCDでも4番が先に収録されているところを見るとあながち順番通りの収録以上の意味があるのかもしれません。出だしは弱音のピアノで開始されます。オーケストラもPPで伴奏がつけられていきます。このフィリップスの録音1999年のレコードアカデミー賞の録音賞を受賞しています。ラトルはきちんとヴァイオリンの両翼配置でみずみずしい伴奏をつけています。

 

 この第4番ではベートーヴェンは2種類のカデンツァを残していますが、ブレンデルは短い方のカデンツァを演奏しています。ブレンデルは作曲家によってピアノを使い分けていたようで、モーツァルトやシューベルトはベーゼンドルファー、リストやこのベートーヴェンはスタインウェイを使っていたようです。第二楽章の静謐としたピアノの響きは聞き物です。そして、第三楽章はピアノとオーケストラの火花の散る掛け合いが展開されています。ピアノの粒立ちといい響といいこれはやはり聴き応えがあります。

 

 

 そして、「皇帝」です。巷ではこの「皇帝」は、三大ピアノ協奏曲のひとつに挙げられるほどの名曲であります。この曲、第1楽章の冒頭にいきなりカデンツァが来て、そこから少し落ち着いてオケの提示部が来て、これがクレッシェンドしていって、落ち着いたところでピアノが引き継いで重厚な掛け合いが始まります。ベートーヴェンの手にかかるとソナタの提示部だけでこれだけ見事になるんだから恐るべしです。でも、この5番では展開部でブレンデルのピアノがちょっとオケの速度についていけてないし、若干ふらつく部分があります。そういう意味ではレヴァイン/シカゴ響とのバトルは聴き応えがありました。

 

 

 そして第2楽章。このアダージョは有名ですが、ここでのブレンデルの訥々とした演奏は心に染み入ります。これ、わざとずらすような感覚で弾いているような気がします。これはこれで新しい表現方法なんでしょう。まあ、以前と同じようなことをやっていては進歩がありませんからなぁ。

 

 

 さて、ラトルの指揮。全体的にテンポがかなり速く設定されてています。よく聴くと、もうこの当時からピリオド奏法の手法でオーケストラを指揮しているように感じられます。確かにピリオドだとゆっくりのテンポでは間が持ちませんからねぇ。巨匠たちが伝統的に振ってきたベートーヴェンって、重厚じゃないですか。もう、そっち路線の録音は山のようにあるし、当時はもっと速かったみたいだから、それになるべく忠実にしたうえで再解釈したらどうなるのかという事を、ラトルは試してるんじゃないかと思います。伝統的な重厚で胸に沁みるベートーヴェン像が出来上がってしまってる人は拒絶反応してしまうかも知れないけど、これはこれで新鮮です。実際、ラトルは古楽器のエイジ・オブ・インライトゥメント管弦楽団などをこの当時はよく振っていて、ピリオドの表現方法にも精通していましたからねぇ。まあ、それもあって、ウィーンフィルはラトルにベートーヴェンの交響曲全集の録音を持ちかけたのかもしれませんな。