東京のパイヤール | geezenstacの森

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『東京のパイヤール』
 

曲目/

1.モーツァルト:セレナード ト長調 K.525『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』 16:05
2.ブラヴェ:フルートと弦楽オーケストラのための協奏曲イ短調 14:48
3.オーベール:4つのヴァイオリンのための協奏曲ト短調Op.17-6 11:32

4.カルル:12の弦楽器のための室内交響曲 18:30
5.ハイドン:セレナード 作品3の5 3:02


フルート/マクサンス・ラリュー

ヴァイオリン/湯ゲット・フェルナンデス

チェンバロに/アンヌ=マリー・ベッケンシュタイナー

指揮/ジャン=フランソワ・パイヤール
演奏/パイヤール室内管弦楽団

録音:1968/10/28、東京文化会館(ライヴ、ステレオ)
日コロムビア RE1029-RE (エラートとの共同制作)

 

 イ・ムジチ合奏団とともにバロック・ブームの立役者となったパイヤール室内管弦楽団は1968年10月に初来日しています。この時、ベストセラーとなる「四季」録音の2年前の公演はフランス古典、バッハ、モーツァルト、ドビュッシーに現代作品まで含む多彩なプログラムで全国6公演を行いました。
 この録音は10月28日東京文化会館におけるコンサートを収録したもの。コンサートマスター、ユゲット・フェルナンデ、チェンバロにパイヤール夫人のアンヌ=マリー・ベッケンシュタイナー、そしてフルートに人気のマクサンス・ラリューを迎え、鍛え上げられたアンサンブルと練り絹のように優雅で美しいサウンドを聴かせてくれています。このレコードはその後、「エラート1000」として1971年6月に再発売されたものです。エラートとの共同制作ですが、この録音は先年発売された「パイヤール大全集」には含まれていません。日コロムビアに版権があるのでしょう。CDでは2008年に発売されていますが、その後は長く廃盤なっています。
 これはCDで発売されたときのデザインです。レコード初出のアルバムは確認できませんでしたが、多分初出も同様のジャケットではなかったでしょうか。
 さっそく聴いてみると,最初のアイネ・クライネ・ナハトムジークでは,このアンサンブルの持ち味である明晰でカラッとした響きを聴かせながら,軽快に弾むように弾き進められており,厚みやニュアンスといった面は乏しいのは当時のエラートのサウンド作りに沿って制作されたようなところが伺われます。事実としても,もってまわったところのない率直な表現には独自の魅力が感じられます。その第1楽章です。
 エラートにもセッション録音を残していない「ミシェル・ブラヴェ」の協奏曲になると,陰影のあるしっとりとした響きとなっていて,やや厚ぼったさを感じないではありませんが一段と表現力を増した感がありますし,ここで披露されるマクサンス・ラリューのフルート・ソロの方は明快さと音色の味わい深さを兼ね備えた大変に魅力的なもので,聴いていて惚れ惚れとする演奏を堪能させてくれます。 B面のジャック・オーベールの協奏曲では,第1ヴァイリンの4人がソロを務めているのですが,いずれも的確がつ雄弁で,押さえの利いたアンサンブルとともに見事なバランスをつくり出しており,思わず惹き込まれる魅力的な演奏です。下はその第2楽章です。
 マルク・カルル(Marc Carles,1933-)の室内交響曲は1959年から60年にかけて作曲され,パイヤール室内管に献呈されています。作風としては20世紀前半のフランスのシリアスな弦楽作品といった印象があり,決して聴きづらいものではありません。パイヤール室内管弦楽団はマリー・ルクレールの作品を演奏する団体として組織されて、もっぱらバロック期の作品を演奏する団体と思われがちですが、現代音楽にも積極的に活動してレパートリーを広げていました。演奏自体も大変克明に作品を再現しており,独特のコンテンポラリーな魅力を感じさせるものでした。 最後のハイドンのセレナードはアンコールでしょうね。今ではローマン・ホフシュテッターの作曲とされている作品ですが、この当時はまだ、ハイドンの作品と認識されていたんでしょうなぁ。弦楽合奏による演奏で,編成の厚みを生かしてダイナミックレンジの広い演奏を聴かせてくれています。 こうして聴いてみると,この録音でのパイヤール室内管は,穏当でオーソドックスな演奏などというのではなく,集中度の高いシリアスな演奏を行っていることが印象的です。その一方で,ここで聴かれる,明快かつ独特の美的感覚とストイックさを感じさせる響きには,どこか貧相に思えるところもあり,これに関しては,やや痩せ気味の録音のせいもあるかもしれません。 そんなわけで,パイヤール室内管のライヴ録音であるというドキュメントとしての貴重さだけでなく,この時代の代表的な演奏スタイルによる優れた技量の名演を聴くことのできる1枚として,記憶にとどめておきたいと思います。