名フィル
第79回市民会館名曲シリーズ
曲目/
メンデルスゾーン:ヴァイオリン協奏曲ホ短調*
ドヴォルザーク:チェロ協奏曲ロ短調**
休憩
チャイコフスキー:ピアノ協奏曲第1番変ロ短調***
ヴァイオリン/富田心*
チェロ/中木健二**
※新型コロナウイルスの影響により、アナスタシア・コベキナから変更
ピアノ/松田華音***
※新型コロナウイルスの影響により、アンドレイ・ググニンから変更
指揮/円光寺雅彦
演奏/名古屋フィルハーモニー交響楽団
今回のコンサートもコロナの第6波の影響で出演者の変更が相次ぎました。コンサートの告知チラシが出来上がった段階ではチェリストの変更は確定していましたが、年末の入国規制の強化でピアニストのアンドレイ・ググニンも来日できなくなってしまい、チャイコフスキーのピアノ協奏曲もさんに変更になりました。こんな経歴の持ち主です。この変更も楽しみでした。
4歳でピアノをはじめ、6歳よりモスクワに渡り、E.イワノーワ、M.ヴォスクレセンスキー、E.ヴィルサラーゼ各氏に師事、翌年ロシア最高峰の名門音楽学校、モスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校ピアノ科に第一位で入学。
エドヴァルド・グリーグ国際ピアノ・コンクール(モスクワ)グランプリ受賞他、多くのコンクールで優勝を果たす。国立アレクサンドル・スクリャービン記念博物館より2011年度の「スクリャービン奨学生」に選ばれ、2013年2月にはモスクワ市立グネーシン記念中等(高等)音楽専門学校で外国人初の最優秀生徒賞を受賞。翌年同校を首席で卒業。9月、モスクワ音楽院に日本人初となるロシア政府特別奨学生として入学、2019年6月首席で卒業。同年、モスクワ音楽院大学院に入学、2021年6月修了。
2014年11月ドイツ・グラモフォンよりCDデビュー。2017年6月に最新アルバム「展覧会の絵」をリリースした。2018年かがわ21世紀大賞受賞。
チェロは中木健二氏で、3歳からチェロを始め、愛知教育大学附属岡崎小学校、愛知教育大学附属岡崎中学校卒業、大学は東京芸術大学に進み、その後2003年にパリ国立高等音楽院チェロ科に入学、2007年に卒業。フランス留学はロームミュージックファンデーションの奨学生としてであり、パリ国立高等音楽院の卒業ではプルミエ・プリ(一等賞)および審査員特別賞を与えられている。2009年にはスイス・ベルン高等音楽院ソリスト・ディプロマコースを卒業。その間にまた、04年より6年間イタリアのキジアーナ音楽院夏期マスタークラスでA.メネセスのクラスを受講し、最優秀ディプロマを取得している。2010年からのフランス国立ボルドー・アキテーヌ管弦楽団首席奏者などを経て2014年4月帰国、ソリストおよび室内楽の演奏活動を始める。紀尾井シンフォニエッタ東京メンバー。東京藝術大学音楽学部准教授。
これまでにチェロを久保田顕、林良一、河野文昭、向山佳絵子、P.ミュレール、A.メネセスの各氏に、室内楽を松原勝也、岡山潔、B.パスキエ、C.イヴァルディ、F.サルク、E.ル・サージュの各氏に師事[4]。
使用楽器はNPO法人イエロー・エンジェルより貸与されている1700年製ヨーゼフ・グァルネリ
ヴァイオリニストだけは当初予定のアーティストの富田心さんでした。2002年、岡山に生まれ生後6か月で渡英。4歳からヴァイオリンを始め、10歳の時にユーディ・メニューイン音楽学校に英国政府留学生として入学、ピエール・アモイヤルらに師事。2020年にはBBCヤング・ミュージシャン・オブ・ザ・イヤーの弦楽器部門で日本人初の優勝を飾っています。現在は英国を拠点としてヨーロッパを中心にソリスト、室内楽奏者として活躍中。今年の2月には日本でもデビュー・コンサートを開催しますので、そのリサイタルに先駆けての名フィルとの共演ということになります。デビューアルバムの「富田心/オリジンズ」は2月11日発売予定です。そういう意味では一番期待したヴァイオリン奏者でした。
今回は協奏曲が3曲も並ぶという新年にふさわしい名曲コンサートとなりました。また、個人的には指揮者の円光寺雅彦氏は初めて演奏を耳にします。まあ、地元ではセントラル愛知交響楽団とコマーシャルに出ているのでよく知ってはいます。
今回のステージ構成
日本では初お目見えですが、イギリスではすでに活動歴も長いので物怖じしないステージパフォーマンスで登場です。第一楽章の出だしはオーケストラとの呼吸が今ひとつ合わないような感じでしたが、直ぐにテンポ設定話立て直し、オーケストラを引っ張る形で自分のテンポで弾き始めました。そうすると演奏は安定し、実にのびのびとした音楽を奏で始めるではありませんか。本場イギリスで揉まれているんでしょうなぁ。
音程は安定しているし、スケール感はそこそこ持っています。ただ、ソロの音量的にはもう少しオーケストラに埋もれない力量が欲しいところです。それでも、日本デビュー前にオーケストラと共演したことは今後の活動にプラスになるのではないでしょうか。比較的シビアな名古屋の聴衆相手に、3人の中では一番拍手をもらっていたことで、その片鱗をうかがい知ることができました。これからの成長が楽しみです。
チェロの中木健二氏は2016年にバッハの無伴奏チェロ組曲の全曲盤をリリースしている今年50歳になろうという中堅の奏者です。世間は宮田大氏ばかりを注目していますが、この中木氏もなかなかどうして隅に置けません。ここでのドヴォルザークもスケール感は今一歩でしたが、技巧に裏打ちされた緻密な演奏でドヴォルザークの郷愁を誘う旋律を見事に歌いきっていました。
そして、後半のチャイコフスキーです。今でも毎月のようにオーケストラとの共演コンサートが組まれているようで若手の中でも引く手数多なのでしょう。技巧的にも申し分ないのですが、ちょっと音楽が流れていないような感じで損をしていました。この日の指揮の円光寺氏はちょっと平凡な演奏で、終始音を合わせに行く音楽づくりに徹していましたるまあ若い演奏家を暖かく包み込みたい気持ちはわかりますが、少々安全運転でソリストたちの可能性を引き出すまでには至っていなかったのが残念です。
これで、指揮が川瀬賢太郎氏であったなら、ソリストを煽り立てるような伴奏でイケイケドンドンの丁々発止のやり取りが期待できたのではと思わずに入られません。