アバド/シカゴのマーラー交響曲第5番 | geezenstacの森

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アバド/シカゴ

マーラー交響曲第5番

 

曲目/マーラー

交響曲第5番嬰ハ短調

1.第1楽章 In gemessenem Schritt. Streng. Wie ein Kondukt.    12:53

2.第2楽章 Stürmisch bewegt. Mit grösster Vehemenz.    15:18

3.第3楽章 Kräftig, nicht zu schnell.    17:41

4.第4楽章 Adagietto. Sehr langsam.    11:55

5.第5楽章 Rondo-Finale. Allegro giocoso. Frisch.    14:41

 

指揮/クラウディオ・アバド

演奏/シカゴ交響楽団

 

録音/1980/02/16-18 オーケストラホール、シカゴ

P:ライナー・ブロック

E:クラウス・ヒーマン

 

DGG GCP1028(同朋舍出版)

 

 

 アバドのマーラーの5番はアバドのシンフォニー・エディションで所蔵していますが、そちらの方はほとんど何の印象も残っていないので、取り上げてもいません。アバドは若かりし頃は音楽の作りがピシッと決まっていて輝いていました。これも彼の47歳の時の録音です。時代はまだ、アナログ録音の時代です。他社はすでにデジタル録音をスタートさせていましたが、DGGは新しい技術には奥手だったんでしょうなぁ。しかし、そのおかげでアナログ末期の優秀録音が誕生しました。

 

 このCDは「Great Composer」シリーズの一枚です。今のディアゴスティーニの前身の会社が出した初めてのクラシックものでした。この時が内容的には一番充実していました。何しろ当時のポリグラム系の音源を使ってのシリーズでしたからどれも名盤の誉れ高い演奏でシリーズが構成されていました。これもその中の一枚です。

 

 たまたま、先日豊橋に出かけた時車の中で聴こうとピックアップしたCDホルダーの中に収まっていたものです。何気無しにカーオーディオにセットして聴いていたのですが、これがすこぶるいい音で、また、とてつもなくトランペットが鮮烈で思わず聴き耳を立てたものです。あらためて、CDを確認するとアバドがシカゴ響と録音した演奏でした。

 

 車の中で聴いても感動するような演奏はそうそうあるものではありません。ちなみに、アバドが93年に録音したベルリンフィルとの演奏はライブ録音で全体のバランスといい音質といい絶対このシカゴ響の方がいいと感じた次第です。何で、全集にするときにライブ盤のベルリン・フィルとの演奏を収録したのか意味不明です。これもあって、アバドのシンフォニー・エディションは個人的には評価を下げました。アバドはやはり、70-80年代が一番輝いていました。

 

 これは、一応シカゴ響、ウィーン・フィル、ベルリン・フィルら3つのオーケストラを振り分ける形で、完成に16年かけたアバド第1回目のマーラー交響曲全集から1980年録音の交響曲第5番で、シカゴ交響楽団との3枚目の録音でした。アバドのマーラー録音はすこぶる多く、指揮者人生の⅔にわたっています。この1回目の全集作成に16年かかったのも、納得のいく形で、一定以上のレベルを保って満足のいく演奏できたのは若いアバドがそれだけ注目されていたということでしょう。

 

 第1楽章は葬送の曲とのことなので、他盤だと、憂鬱な感じで、どこか足を引きずりつつ、葬列に参加している感じを受けるものが多いのですが、アバド盤は、あまり、その雰囲気はありません。冒頭のトランペットからして押し出しが強く、迫力、勢いがあり張り詰めた緊張感が感じられます。このころのトランペットの主席はアドルフ・ハーセスです。てっきり彼の輝かしいソロだと思い込んでいたのですが、調べるとどうもウィリアム・スカーレットだったようです。

 

 

  第2楽章はアタッカに近い形で第2楽章に入ります。中盤はやや遅く奇を衒わない素直な曲作りであり、CSOの厚みをよく生かしています。再現部の頂点前あたりでアバドらしい構造の単純化が少し聴き取れますが、音楽解釈を都度変更しているアバドの思考の現れでしょう。その為、自然な流れと高揚感がアップしています。コーダでの金管の迫力はCSOらしい迫力があります。

 

 

  第3楽章は間延びしないテンポ設定でありながら、所々での弾むようなリズムなど長いこの楽章を飽きさせず聴かせます。アバドはこの楽章をよくわかっている。主旋律を強調するあまりバランスを崩して、曲が単純化してしまう悪癖が後に顕在化しますが、ここでは殆ど聴かれない点も音楽を充実化させています。多分、CSOの合奏力の賜物でしょう。再現部からコーダでしっかり盛り上がています。この辺りは、さすがショルティに鍛えられた痕跡が伺えます。

 

 

 第4楽章アダージェットも、アバドは綺麗に弦楽器群を歌わせています。歌謡性豊かな表現には汲めども尽きぬ情感が満ち満ちており、その歌心溢れる柔和な美しさには抗し難い魅力があり、いい意味での剛柔バランスのとれた名演に仕上がっています。この時期のアバドのやる気で、オーケストラもシカゴ響で不満なく、エンジニアが応えた録音も優秀です。後の録音では後退してしまうフレッシュな感覚で満ちあふれている美しいマーラーに仕上がっています。

 

 

 第5楽は中庸なテンボでじっくりと音楽を作っています。この楽章はかなり複雑な要素を含むと思われますが、アバドは実に上手くおいしいところを聴かせています。三重、四重に絡み合った旋律線を、主旋律と副旋律までにまとめ上げ、その他は雰囲気を作る程度に抑えているようです。それに、しっかりと合わせているCSOも大したものです。80年代のアバドの若々しい躍動感もあり迷いもありません。ここでも、コーダではCSOの金管群が圧倒的な迫力で高らかに歌いあげ、感動的に締め括っています。

 

 

    この頃のシカゴ響は、最強です。