プレヴィン、ブレンデルの
「展覧会の絵」
曲目/ムソルグスキー
組曲「展覧会の絵」
1.プロムナード(ピアノ版) 1:31
2.こびと(ピアノ版) 2:26
3.プロムナード(ピアノ版) 0:51
4.古い城(ピアノ版) 4:57
5.プロムナード(ピアノ版) 0:30
6.組曲「展覧会の絵」 チュイルリーの庭(ピアノ版) 0:58
7.ブイドロ(ピアノ版) 2:57
8.プロムナード(ピアノ版) 0:42
9.卵のからをつけたひなの踊り(ピアノ版) 1:05
10.サミュエル・ゴールデンベルクとシュミーレ(ピアノ版) 2:17
11.プロムナード(ピアノ版) 1:24
12.リモージュの市場(ピアノ版) 1:23
13.カタコンブ(ピアノ版) 1:56
14.死せる言葉による死者への話しかけ(ピアノ版) 2:22
15.バーバ・ヤガーの小屋(ピアノ版) 3:21
16.キエフの大きな門(ピアノ版) 5:09
組曲「展覧会の絵」ラヴェル編曲
17.プロムナード(管弦楽曲版) 1:39
18.こびと(管弦楽曲版) 2:35
19.プロムナード(管弦楽曲版) 1:02
20.古い城(管弦楽曲版) 4:26
21.プロムナード(管弦楽曲版) 0:32
22.チュイルリーの庭(管弦楽曲版) 1:02
23.ブイドロ(管弦楽曲版) 2:39
24.プロムナード(管弦楽曲版) 0:41
25.卵のからをつけたひなの踊り(管弦楽曲版) 1:16
26.サミュエル・ゴールデンベルクとシュミーレ(管弦楽曲版) 2:24
27.リモージュの市場(管弦楽曲版) 1:27
28.カタコンブ(管弦楽曲版) 2:15
29.死せる言葉による死者への話しかけ(管弦楽曲版) 2:02
30.バーバ・ヤガーの小屋(管弦楽曲版) 3:32
31.キエフの大きな門(管弦楽曲版) 6:05
ピアノ/アルフレッド・ブレンデル
指揮/アンドレ・プレヴィン
演奏/ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音/1985/07/1-7 ロンドン
1985/02/14.1504/20,21 楽友協会大ホール
フィリップス 432577
ウィーンフィルは大御所指揮者と膨大なレパートリーの録音を行なっていますが、この「展覧会の絵」はなんとウィーンフィル初の録音というものになっています。それまで、誰もこの展覧会の絵を録音しようとは考えていなかったようです。そして、このプレヴィン盤もセッション録音ではなく、ライブという形で収録されています。
このCDのもう一つの特色はブレンデルのピアノ盤の演奏とのカップリングになっているということでしょう。こういう企画はレコード時代にはアシュケナージとメータの組み合わせでLPが発売されたことがありました。こういう組み合わせの走りですな。ところが一粒で二度美味しいこういう企画盤、後が続きませんでした。デッカは二人とも若いアーティストだったのでカップリングの許諾が取れたんでしょう。のちにカラヤンとラザール・ベルマンとのカップリングでこういう組み合わせが発売されていますが、2000年代になってからでした。1990年代ではムーティトワイセンベルクという組み合わせでも発売されたことがあります。
ただねどちらもデジタル録音ということではこのブレンデル、プレヴィン盤にはかないません。両者ともオリジナル版ではありません。ブレンデルのピアノ盤はカップリングにリストの「王の御旗」Vexilla Regis Prodeuntという珍しい曲が収録されています。ほとんど他に録音のない曲ですから、オリジナル盤も一聴の価値があります。
ピアノ盤はホロヴッツやリヒテル、新旧のアシュケナージ盤など幾多の名演がひしめいています。その中でのブレンデルの位置付けはあっさり系と言えるでしょう。ブレンデルはかなり長いキャリアの中で2回、この曲の録音をしています。普段のコンサートのレパートリーに入れていたかというと、ほとんど弾くことはなかったようなのですが、キャリアの初期に1度、脂がのりきった頃にもう一度というのが面白いです。
もともとゆっくり目のテンポで弾いているのですが、この
新録音は一枚一枚の絵を眺めながら、気になる絵(遅い曲)では足を止めてゆっくりと細部を見つめ、次の絵に移る間(プロムナード)で、余韻にひたったり次の絵に行く心の準備をしたりしているような雰囲気を醸し出しています。新録音では絵の性格分けが深まったのが魅力でしょうか。ちょうどこのころのライブ録音枷聴けます。
さて、プレヴィンですが、録音歴の長いプレヴィン唯一の録音となっています。そこに起用されたオーケストラがウィーン・フィルというこちらも初めての録音というフレッシュな組み合わせの録音になっています。ウィーンフィルはこののちゲルギエフと録音していますから、その演奏との聴き比べも面白いでしょうなぁ。
ウィーンフィルは柔らかい弦や木管、金管の響きが特徴で伝統的なドイツ・オーストリアの音楽は得意としています。それ故にロシア音楽はあまり合っているとは思えませんが、返って金管バリバリで無い演奏がヨーロッパでは好まれるのか1950年代からクリップスヤマルティノンといったところが録音しています。デジタル時代になってからも、カラヤンを始め多くの指揮者がこのオーケストラを使ってチャイコフスキーやショスタコヴィチなどの派手な金管を特徴とする楽曲を録音しています。まあ、インターナショナルなオーケストラに変貌しているからなんでしょうが、そんなウィーフィルでもムソルグスキーの「展覧会の絵」を煌びやかに演奏したのが、他ならぬアンドレ・プレヴィンの指揮によるこの演奏でしょう。
プレヴィンと言えば、ラヴェルやラフマニノフなどの近代から現代の作曲家の作品を得意としています。その一方で、ウィーンフィルが得意とするのはどちらかというと古典派から後期ロマン派までのドイツ=オーストリア音楽。この「展覧会の絵」の演奏では、両者の特長が掛け合わさり、プレヴィンの近代的な響きのセンスと、老舗オケのウィーンフィルの柔らかい響きが相まって名演へと仕上がっているます。
冒頭のプロムナードからウィーンフィルらしい響きです。トランペットの音色がとても柔らかく、温かい響きである。7曲目のビドロも、重々しく歩んでいく牛車というよりも、優雅に歩いていく馬車のように感じられる。圧倒さや重厚感はないのだが、温かくて豊かな響きのハーモニーが逆に心地よい。ビドロには「牛車」の意味の他にポーランド語で「虐げられた人々」の意味があり、ムソルグスキーも圧政に苦しむポーランドの人々をイメージして作曲したとも言われているが、このプレヴィンとウィーンフィルの演奏にはそういう苦しみとは無縁です。ウィーンフィルが演奏すると「展覧会の絵」が優雅になっています。他の曲でも弦と木管、金管の豊かな響きが生かされていて、威嚇的にはならないのが特徴でしょう。
最後の「キエフの大門」では、他の演奏家では凱旋の意を表して堂々と演奏するものが多い中、このプレヴィン盤では少しゆったり目のテンポでウィーンフィルの持ち前である柔らかい金管の響きを優雅に響かせています。まるで温泉に浸るような、じんわりと温もりが伝わってくる。最後までスローなテンポで美音を響かせています。
ムソルグスキーのピアノ原典版にあるような力強さ、獰猛さ、そして野蛮さからは遠いところに位置する、華やかで洗練された西欧風のラヴェル編曲を、さらに優雅で美音に演奏しているという点で、原典版とは別の作品に聴こえるのですが、これはこれで素晴らしい。
ブレンデルの枯淡といい、まあ、大人のための「展覧会の絵」といった感じでしょうか。