アインザッツ
著者:山本寛
出版:学研パブリッシング
大学生になった頼場駈呂は音楽から足を洗おうと考えていた。ところが、駈呂の母校・二高吹奏楽部の副部長、橋久奈から「コンクールの指揮者になって!」と頼まれる。「やる」「やらない」の答えを先延ばしにしたまま駈呂は二高を訪れて合奏の指揮をするが、指揮棒を何度振り下ろしても最初のクラリネットの音がでない。一年生の演奏技術がまだまだなのだ。しかし吹奏楽部の部員たちは、駈呂の指揮に何かを感じ取っていた。
まるでコミックス誌のような表紙のデザインです。随所に平松禎史氏のイラストが挿入されていて、読んでいるときはジロジロ見つめられたものです。
雑誌「アニメディア」で2010年8月号まで連載された吹奏楽部を舞台にした青春部活小説です。学生指揮者の主人公がまとまらない吹奏楽部でコンクール金賞を目指すという内容なんですが、どう考えても普通の高校の吹奏楽部の様子とは違う違和感があります。高校の部活は一応教育の一部として位置づけられ、部活には顧問の立場で先生が関与するはずですが、この小説には教員が一人も登場しません。以前取り上げた、「吹部」という作品はそういうところもきちんと描かれていましたから納得がいったのですが、この作品はブラスバンドの指揮をいきなりOBの頼場駈呂(よりばかろ)が指揮をするという設定で、なんだかなぁという感じで始まります。
学校でありながら教師が一人も登場しなくて、なおかつOBばかりが絡んで登場するというのははっきりいって、同好会の流れです。
ストーリーとしては部長との淡い恋心が描かれますが、これも中途半端で煮え切らないものがあり、ジュブナイル小説としても楽しめません。まあ、音楽用語がどんどん登場して吹奏楽を楽しんでいる人にはそれなりに楽しめるのですが、それ以外の人はちよっとテワ出さない作品でしょう。
前半で登場するのはバーンスタインの「キャンディード」序曲です。吹奏楽版は4分半ほどの演奏時間の編曲になっています。多分こんな演奏なんでしょう。
この曲を提げたコンクールでは最下位になってしまいます。そんなことで翌年は部員の数が激減してしまいます。
部員減少の切り札として、主人公が父から手渡されたのが小編成用の楽曲「ウィンクルム」だったのです。意味としては「絆」という作品で、この小説のために書き下ろされた作品です。下の演奏はその作曲者の天野正道誌が実際に指揮している演奏で、バンドもこの雑誌に収録されている尚美ウィンドオーケストラが演奏しています。そう、この雑誌の特徴は、付録として、実際に演奏されているCDがオマケについているのです。そして、実際の楽譜もPDFで収録されていますからブラバンの活動には役立つ仕様になっているのです。
これらの映像でもわかることですが、実際の指揮はやはり教師クラスが行なっています。練習での分奏とか、トレーニングでは学生が指揮することはあるでしょうが、本番はやはり違いますわなぁ。
個人的には、指導の方法とか音作りのトレーニングとかは経験者の作者の記述で楽しめましたが、小説としてはあり得ない内容なので一般の人にはお勧めできません。そうそう、多分ウィンドウズパソコンではこの付録のCDはちゃんと再生できますが、マックでは読み込めないOSのバージョンがあります。多分OS10.6.8ぐらいまでは大丈夫ですが、それ以上のバージョンは認識すらしないかもしれません。それもマイナス点になります。