浮世絵の解剖図鑑―江戸の暮らしがよく分かる | geezenstacの森

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浮世絵の解剖図鑑

江戸の暮らしがよく分かる

 

著者   牧野 健太郎

出版社: エクスナレッジ

 

 

 浮世絵をのぞいてみると誇張や偏り、遊びはありますが「物質的には裕福ではないが平和で幸せそうな人たち」の住むお江戸の姿が見えてきます。浮世絵に隠された秘密の暗号を読み解く。---データベース---

 

 本書は、誰もが一度は目にしたことがある北斎の「冨嶽三十六景」や広重の「東海道五十三次」などの浮世絵を通して、江戸の暮らしや文化を覗いてみようというものです。浮世絵の基礎知識をおさえたうえで、江戸の風俗が垣間見られる作品を取り上げ、その見どころを解説してくれます。

 

 例えば、歌川広景「江戸名所道外尽 廿八 妻恋こみ坂の景」。東京・湯島の妻恋神社の参道にある公衆便所で用を足す侍と、その臭いが強烈なのか、鼻をつまむ人たちが描かれています(ちなみに、このひとコマは『北斎漫画』を模写したものだそう)。

 

 

 1つのタイトルをこのように見開き2ページで解説しています。江戸時代は究極のエコ時代で、二酸化炭素の排出はほぼゼロ、その上、リサイクルが充実していて、捨てるところがないほど再利用されていた社会です。電気もガスもありませんから通信手段は飛脚便がメイン。それでも、米相場などはのろしで情報伝達し、最速8時間程度で情報が干支まで届いていたそうです。そういう情報を織り込みながらの浮世絵の楽しみ方が開設されています。

 

 この本の章立てです。

 

目次

序章 5分で分かる浮世絵(浮世絵とは何のこと?;浮世絵はオールジャンル、何でもあり ほか)

第1章 銀座線でめぐる江戸(江戸はずれの田舎町・渋谷『冨嶽三十六景 隠田の水車』;富士見なら青山・竜岩寺『冨嶽三十六景 青山円座松』 ほか)

第2章 江戸の暮らしが分かる(肉だって「いやだいやだ」と薬食い『名所江戸百景 びくにはし雪中』;世界の和食・お寿司の原点『縞揃女弁慶 安宅の松』 ほか)

第3章 季節でめぐる江戸(お江戸の元日はゆっくり寝正月『東都名所 州崎初日の出の図』;お花見は婚活女子の勝負の場『三囲神社の御開帳 向島の花見』 ほか)

 

 当時の江戸っ子だったらタイトルがなくても場所や絵師による皮肉など1枚の絵に含まれた謎解きを仲間内でやる楽しさも感じられます。スポンサーからの要請による広告、人気絵師によるコラボ、洒落好きの江戸っ子の要求、家紋から判明する人物など1枚の絵に込められた彼らの想いなど、豊富な要素が盛り込まれています。一般に浮世絵は葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿といった絵師の名前が知られています。その絵師は有名だが彫師、摺師の技ももっと賞賛されていいのではないでしょうか。わずか1ミリの幅に3本の髪の毛を描く技や、すかし、ぼかしのテクニック、さらには現代の技術では失われてしまった色彩感覚など江戸時代の方が優れていた技術が一枚の絵に凝縮されています。

 

 ただ、この本の欠点は本物の浮世絵を使用して解説していないところです。

 

 

 これを実際の浮世絵なら、下のような色彩であることでより理解できたであろうにと思ってしまいます。

 

 

 まあ後は実際にこの本を手に取ってみていただきたいのですかが、いろいろな工夫がされているのを見て取る事ができます。

 

<縞揃女弁慶 安宅の松>

 国芳による超高級寿司店「松の鮨」広告付きの浮世絵

 

<歌撰恋之部 物思恋>

 恋する若い女性を描いているのですが、髪型に注目してみると

髪型を整えるため「鬢張り」という鯨のひげで作られた整髪グッズが髪を支えていています。こんな所に彫師、摺師による絶妙な技が光っています。

 

<浪花名所図会 堂じま米あきない>

 現在の大阪の堂島と言う場所は 江戸時代幕府公認の米の仲買が行われていた場所で米切手という証券で行われた世界初の先物取引市場の様子が描かれていて、終わりを告げるのに水を掛けて強制終了させているのが何とも笑えます。

 

「富嶽三十六景 青山円座松」

 富士山と対比するように描かれた森のようにこんもりとした一本松。松は現在の渋谷区にある竜岩寺(龍巌寺)の境内にかつてあったもので、絵師の葛飾北斎は、巨大な松を支えるあまたの支柱の間に、巨木を管理する寺男の足をさりげなく描きこんでいます。

 

「名所江戸百景 浅草田甫酉の町詣」

 二階屋の窓から、遠くに雪化粧した富士山、眼下には縁起物の大きな熊手を持って田んぼ道を行き交う人々が見える。その風景を出窓風の格子窓に乗って眺める白猫が描かれているのだが、なぜか猫は耳を立て、見るからにご機嫌が斜めの様子です。

 実は田んぼの中にある二階屋や格子窓から、江戸っ子にはここが新吉原遊郭の一室だとすぐに察し、屏風の向こう側では猫の飼い主が酉の市帰りの旦那を迎えて仕事中のため、猫がすねていると分かるのだそうです。

 

 もし、」裁判がなされるなら、今度は是非実際のウキ用作品で解説してほしいものです。