禁裏付雅帳(9)
続揺
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
禁裏付役屋敷に押し込み捕縛された南條蔵人は、身柄を京都所司代に移された。二条大納言に動揺が走る。彼を裏で操っていたことが露見すると禁裏での立場が危うくなるからだ。家宰に蔵人奪還を命じるが、朝廷の弱みを握りたい老中松平越中守は動きを察知し、対抗策をとる―。朝幕の政争が激化しきな臭さは増すばかり。そんな中、禁裏付の東城鷹矢は驚きの一手を打った。その真意とは!?
京都という街は何か特殊なんでしょうなぁ。伊達に1000年以上の歴史を誇っているのではないことを読み進めるにつけ実感させてくれます。老中・松平定信の命により京に来た主人公東城典善正でしたが、自分の縁者が被害に会うようになり定信との決別に向け動き出します。ここまでは公家たちや所司代など敵対勢力との軋轢に対してなんとか対処してきたのに、ここに来て怒りにの矛先は地震の主たる幕府に向かっていきます。
仕丁の土岐による懐柔ともいえますが、世の中の歴史の流れが見えてきたというところでしょう。この巻の章立てです。
第1章 古き形
第2章 策の応酬
第3章 混迷の夜
第4章 二人の禁裏付
第5章 想いの力
老中首座松平定信の側近、安藤信成の配下の娘、弓枝が勾引かしに逢っても、幕府隠密はだんまりを決め込んでいました。そういう、松平定信配下の動きを機敏に察した禁裏付の東城鷹矢ですが、さらに、下級公家の娘・温子も父の南條蔵人が禁裏付役屋敷に押し込み捕縛されます。帰る場所を失った温子は親子の縁を切ります。
鷹矢はその南條蔵人を京都所司代に奪われます。まあ、形の上では禁裏付の上司にあたるわけですから致し方がないことです。しかし、この措置は、松平定信配下の霜月織部と津川一騎の不信を招くことになります。公家を巻き込んだこの騒動は、は以下の徒士目付達が南條蔵人を奪取して鷹矢の元に連れ戻す策に打って出ます。ところが鷹矢はそれをまたもう一人の禁裏付の黒田黒田伊勢守の屋敷の門前に捨て置くという作戦に出ます。
まあ、考えてみれば少し前にこの黒田伊勢守に預けた案件が反故にされていました。こちらも少々対立姿勢が目立ってきたということでしょうな。
女に関しては、仕丁の土岐に預かりになった闇の女浪は光格天皇の実家、閑院宮家預かりとなります。ただ、この女をめぐってはあちこちで暗躍が始まっていきます。政治本来の駆け引きにプラスして、この波を加えた3人の動向が今後のストーリーのキモになってくるのでしょうか。
登場人物それぞれの思惑の違いが行動に現れ今回は現実的な内容の話です。いつの間にやら鷹矢が松平定信を批判できる程たくましい若者になり、そろそろこのシリーズも終盤で思っていたらまだ続く様子です。