禁裏付雅帳(8)
混 沌
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
許嫁の弓江が攫(さら)われた。目撃者の話によると、敵は南禅寺の近くを根城にしているらしい。弓江はそこに拉致されている可能性が高い。目星をつけた禁裏付の東城鷹は、剣の遣い手、檜川とともに現場へ急行する。待ち受けていたのは、京の闇を牛耳る恐るべき戦闘集団「四神」だった──。女を拐す卑怯千万な外道は許さぬ。鬼と化した鷹矢が太刀を抜いた。血がしぶき肉が舞う死闘の行方は!?---データベース---
シリーズ8巻目です。最初の頃は旗本のいいとこのボンボンでしかなかった若き禁裏付東城鷹矢がいつのまにかたくましくなり、この巻では、市場関係者の伊藤若冲や倫理の仕丁などの力を借りて情報を収集し、友美恵を誘拐した敵が南禅寺付近に巣食う、闇の仕事を請け負う一味であるとの情報を掴みます。そして、剣では用心棒から家臣に取り立てた檜川にはとてもかなわないものの率先して敵地に乗り込むことを決断します。禁裏付の目付けたちはあてにしませんし、彼らよりは鷹矢の方が剣術のレベルは上でしょう。この間の章立てです。
また、ストーリー的には仲間と思えたもう一人の禁裏付黒田伊勢守はいつのまにか敵対する存在へと変化していっています。その背景にあるのが光格天皇への接近でしょう。仕丁の土岐の計らいで、禁裏の庭の見学という建前で禁裏付としては初めて天皇と言葉を交わします。この頃には、土岐とのやりとりで、天皇、朝廷公家が、血を見ることを嫌って、仁に頼り、結局、武家に依存し天下を治めなくなった理由が鷹矢にも理解できるようになっています。そして、自分たち武士の現在の立場も、いつのまにか歴史の大きな流れの中で同じような立場になっていることを悟ります。
第1章 帝の耳
第2章 外道と鬼
第3章 歴史の闇
第4章 噂の力
第5章 嘘と誠
この巻のストーリーのメインは誘拐された弓枝の救出で、京の闇を牛耳る恐るべき戦闘集団「四神」を登場させてもう少しは激しいバトルがあるのかと思いましたが、あっさりと敵を倒していきます。ただ一つの計算違いは敵の放つ矢に檜山が負傷してしまうことでしょう。
最後は仕丁の土岐が現れ、天皇の勅書で黒幕を成敗するところはいいところをかっさらって行くなぁと思ってしまいます。まあ、サレだけ京都では朝廷の力が強いということでしょう。弓枝は無事救出しますが、鷹矢の男らしい振る舞いに胸キュン状態になります。まあ、こんな形で助けられるのですから、これは致し方ないところでしょう。まあ、これで、温子と弓枝は対等の立場で鷹矢を取り合うことになるのですが、立場的には弓枝の方が少々有利でしょう。
多少登場人物が増えて整理がつかなくなってきていますが、ゼニボケ商人の攻撃は結局かわしきれてないままになっていて、今度はちょっとした絡め手も使われそうな気配を残しています。