禁裏付雅帳(7)
仕掛
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
南條蔵人が禁裏付役屋敷に押し込んできた。幕府に喧嘩を仕掛けたに等しい狼藉は、東城鷹矢にとってまたとない好機だった。捕縛した蔵人を老中に差し出せば、朝廷の弱みを探るという密命を果たすことができるからだ。それをされては窮する者が、蔵人の口封じに動くのは必至。鷹矢は厳重な警護態勢をしき任務を遂行しようとするが、思わぬ妨害工作を受ける。暗躍しているのは一体誰なのか!?
シリーズ7巻目、主人公の東城鷹矢も若いですがいつの間にやら公家や町奉行と対等で会話をしていますそういう意味では成長しているのでしょうが、イマイチ不明なのが物語の時間軸です。
前巻でとらえた南條蔵人をさあどう活用するかという点が焦点と思ったが、そこはちょっとモタモタします。こういう情報はすぐに金利に伝わり、公家たちは即座に動きます。この機敏さを禁裏付も少し持ち合わせたらなぁと、勝手に思ってしまいます。
この巻の章立てです。
第1章 将軍の思惑
第2章 闇との交渉
第3章 朝議混乱
第4章 お庭拝見
第5章 動いた闇
この巻の最後は誘拐という形で次巻につながります。一応今までは単独で完結の形を取っていましたのでちょっと意外な展開です。それが表紙の絵にも描かれています。
冒頭は依然徳川治済の大御所問題を引きずっていて、半世紀以上も将軍に在籍した家斉を大御所事件でここまで引っ張る必要もないと思うのは自分だけではないと思わざるを得ません。
温子の父親の騒動は禁裏付にプラスに作用すると思われましたが禁裏の思惑を受けた京都所司代が素早く動き、禁裏付の上司という立場で南條蔵人を京都所司代に移送してしまいます。まあ、後々のことを考えるとこの一手は失策ではなかったと思えます。
尊号事件では、松平定信に与する体で臨んでいる鷹矢ですが、展開を見ていくと第4章でお庭拝見とあるように歴代の禁裏付でも天皇と言葉を交わすことなどあり得ないのに仕丁の土岐の計らいで叶うことになります。これが、物語の展開に大きく作用していることはいうまでもありません。通常ではありえない、この進歩にシリーズも先を見据え主人公の成長を図ったのかと思える展開です。ただ、裏を返せば、取り返そうとする公家たちと、口封じをしたい者たち、さらに京都所司代も手を出してきて、上手く活用できない状況に、自分の計画があってそれにそって動いているのか、行き当たりばったりなのか心配になってきます。
そして、ダブルヒロインの温子と弓江はこの巻でも仲良く振舞い鷹矢もどちらを贔屓にすることもありません。少々じれったい展開ですが、そこにまたぞろ裏社会の暴力が手を出してくるという動きで禁裏付の周りは不穏な動きだらけです。