禁裏付雅帳(5)混乱
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
錦市場で浪人の襲撃を受けたものの、なんとか切り抜けた東城鷹矢。禁裏付として公家を監察し、朝廷の弱みを握れ-―。老中松平定信から下された密命が露見し、刺客に狙われたのだった。噂をいち早く手に入れ機先を制するのが公家の力。禁裏の手強さを痛感した鷹矢は、このままでは埒が明かぬと正面突破を試みるが……。徐々に激しさを増す朝廷の抵抗、結果を急ぐ幕府からの圧力。二大権力の暗闘の狭間で、かつてない危機が鷹矢を襲う!
サクサク読めるのでこのゴールデンウィークはおとなしく読書に勤しみました。この巻では冒頭から枡屋茂右衛門こと伊藤若冲が禁裏付の襖絵を書いています。和やかな雰囲気ですが、鷹矢は地震では剣術の稽古をします。何しろ、錦市場で襲われるという事件が勃発していました。敵対する京都所司代も傍観を決めるわけにはいきません。渋々江戸に早飛脚便を認めます。まあ、ここからがこの巻の顛末になります。章立てです。
第1章 武と雅の裏
第2章 京という価値
第3章 公家の繋がり
第4章 洛中の騒
第5章 始まった戦い
京都の世界は公家との戦いです。その公家の実態を知ろうと鷹矢は温子を通じて話を聞こうとします。ところが二条家に戻り、話を通すと二条家の家宰の松波雅楽頭が直々に鷹矢似合うと乗り出します。温子は心配しますが、それをよそに雅楽頭は禁裏付を訪れ、鷹矢と対峙します。公家の余りにも禁裏付をないがしろにした行為に堪忍袋の緒が切れた鷹矢が強権を発動し二条家の家宰と急に鋭い対立となり、これを退け、さらには二条家から送り込まれたヒロインと思っていた温子まで実家に追い返してしまいます。ちよっと意外な展開です。
また、絵師としての伊藤若冲と錦市場の相談役枡屋茂右衛門としての活躍を世かからずと思う桐屋は、刺客を送りこれを殺そうと企みます。たまたま、鷹矢が錦市場の会所へ出かけ、危うく殺されかかる枡屋茂右衛門を助けます。そんなことで、二人の仲はより親密になります。
一方禁裏付の見張り役とも言える霜月織部は禁裏付から風雲急を告げる書状を預かり江戸へ下ります。片道6日ほとせかかる京都江戸の移動はその間に別の事件を引き起こします。武家伝送の広橋中納言から、公家の雅を理解するために今日の街中を物見遊山してはどうかと提案されます。きな臭さわ感じるも、鷹矢の方からこの提案に乗ることにします。神社仏閣では意味がないと考え近江坂本へ行くことを決断します。問題が起きたとしても粟田口の外ならば京都ではないので所司代も口出しできないだろうとの考えです。なかなか考えるようになってきています。
こうして、後半は罠の仕掛け合いでの対決の場へと突き進んでいきます。そうそう、この巻では水戸藩邸が関わることになります。この水戸藩御三家でありながら光圀時代から朝廷を敬う家柄で京都に藩邸を構えているんですなぁ。二条家にそそのかされて、朝廷と敵対する禁裏付をのけ者にしようと画策するのですから始末に負えません。同じことの繰り返しのような文章は健在ですが、公家の納める京都の立ち位置と徳川幕府になって200年余りの武家社会の変貌ぶりの近似性を感じ取れるならこれは歴史の勉強としては大いに役立つ小説と言えるでしょう。