レコード芸術 1971年9月号
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この時代のレコード芸術はそれこそ、幾多の雑誌の中で音楽に関するあらゆる音に関するものを取り上げていたような気がします。まあ、元がクラシック音楽のレコードに関する雑誌ということもあり、それが中心であったことに変わりはありませんが、プラスしてジャズ、映画音楽、ムード・ミュージックを含むポピュラー音楽、民族音楽、ドキュメンタリーなど幅広く取り上げていました。取り上げていなかったのは歌謡曲や演歌、邦楽ポップスぐらいではなかったでしょうか。で、こういう雑誌を見て読んで育ちましたので、これらの音楽はほとんど聴いていません。ただ、学生時代にブームであったフォークだけはいろいろ聴いていました。
さて、そういう切り口があるということで、この号では小沢昭一氏の「日本の放浪芸」という企画のレコードを取り上げています。
小沢昭一が自らの足で日本各地を歩き、高度経済成長のさなか滅びつつあった放浪芸人による、門付け芸、大道芸、路上の商い、流し、香具師(テキヤ)、僧侶による節談説教(ふしだんせっきょう)、ストリップ・・・などを約15年の歳月をかけて現地録音した音源の数々が収録されています。民族音楽ではなく、伝統芸能でもない庶民の生活の芸です。多分世界で初めてのドキュメンタリーでしょう。
デンスケとカメラを手にして、ユーモアを交えて時に辛辣に語る小沢節のナレーションによって、単なる芸能発掘の記録ではなく、聴くエッセイのように愉しむことができる一代取材記ともなっています。
当時はラジオ番組で、「小沢昭一的こころ」が放送されていて、その内容とリンクしているところもあり楽しめました。下はこのレコードが昭和46年度日本レコード大賞企画賞受賞した時のものです。
当時のカッティングマシーンはウェストレックスやスカーリーというアメリカ製にドイツのノイマンが一般的でした。日本のメーカーもこれらをソースによって使い分けていましたが、ソニーが当時の新型のノイマンのSX68を大々的に打ち出したことで各メーカーもこぞってこのノイマン製に切り替えていきます。ノイマンはテレフンケンの業務用のブランド名だったようです。ちなみにソニーはレコード販売の中止とともにすべての機器を廃棄したようですが、キングにはウェストレックスとノイマンのカッティングヘッドが資料としてきっちり保管されていました。クラシック系はノイマン、ポップス系はウェストレックスと使い分けていました。
1000円盤は最後まで発売しなかったソニーはこの71年に「栄光のフィラデルフィア・サウンド」というシリーズを発売します。以前紹介した2枚組2,500円のシリーズは不発だったんでしょうなぁ。シリーズは30枚出ていますが、5対1プレゼントのキャンペーンがあり、25枚買うと五枚サービスということで、実質一枚1,250円になるという苦肉の策を取っています。
コロムビアはレギュラー盤の広告の一部で、1000円盤の告知をきっちりと行なっています。ここではヒストリカル1000シリーズでニキシュの1913年録音のベートーヴェンの運命の発売を告知しています。世界初の全曲録音で、ここではペレニアル原盤を使用とうたっています。
こちらはポリドールに移籍したボストンポップスの新譜の発売告知です。ただ、一般の新譜とは分けたページでの告知ということではあまり目立ってはいません。これらのレコードはのちに一部が1,300円盤で再発されています。
渡邉暁雄はずっと日本フィルの指揮者だと思っていましたが、1970年から1972年だけ京都市交響楽団の常任指揮者を務めていたんですなぁ。これはその京響の東京公演のスナップです。ファゴットは中川良平氏です。
この年、7月9日に川口市民会館で、ウィーンフィルのメンバーによる「ウィーンフィル室内合奏団」のセッション録音がトリオレコードにより行われています。メンバーはヘッツェル、ヒューブナー、シュトレンク、スコチッチ、それにフルートのトリンプという豪華メンバーです。ウィーン室内合奏団は、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の不世出の名コンサート・マスターとして敬愛された故ゲアハルト・ヘッツェルが、ウィーン・フィルのトップ・メンバーを集めて1970年に結成。以来、数多くの演奏会や録音を通して世界中で親しまれてきた名門室内合奏団です。
ヘッツェル亡き後は、その薫陶を受けたヨゼフ・ヘルが師の意志を継いでリーダーを務め、メンバーの世代交代を果たしながらも「ウィーン伝統の響きを現代に伝え、楽しんでもらうこと」を第一の使命として活動。
トリオ・レコードは今では存在しませんが、この録音は今はART UNIONというところからCD化されています。
さて、最後は映画の話題です。この号では当時話題になったマーラーの半生(?)を描いたイタリア映画の「ベニスに死す」とベニスつながりで、「ベニスの愛」という2本の映画がグラビアページに格上げされて取り上げられています。前者は美少年とのホモセクシャルな関係が話題となりました。この映画でマーラーの交響曲第5番の第4楽章のアダージェットがいきなりクローズアップされました。主演はアッシェンバッハを演じるダーク・ボガートでしたが、それを喰ってしまったのが美少年でした。映画に登場したこの美少年、ビョルン・アンデルセンはその後数奇な運命を余儀なくされます。詳しくはリンクをクリックしてくださいな。
岡俊雄氏が取り上げたもう一本は、こちらも音楽家を主人公にした映画の「ベニスの愛」です。ベニスの音楽院の教授のオーボエ奏者と別居中の妻との半日の物語です。この作品の音楽を描いたのはステルビオ・チプリアーニですが、このテーマ曲がフランシス・レイの「ある愛の詩」の出だしに似ているということで物議を醸したものです。それは別として、マルチエッロのオーボエ協奏曲が使われていて、そちらも話題になったものでした。