レコード芸術 1971年9月号 2
レコード芸術 1971年9月号の裏表紙です。裏表紙はこのころキングレコードが独占していましたが、ここで取り上げられているのがブリテンの指揮するバッハのブランデンブルク協奏曲全集です。
これがこの月の目次ですが、第1特集はこの9月に来日しているイタリア・オペラの第6回公演の特集です。この年の演目は、
★《ノルマ》
東京文化会館
指揮:オリヴィエロ・デ・ファブリティース
演出:ブルーノ・ノフリ
ノルマ:エレナ・スリオティス、カルラ・フェラーリオ/ポリオーネ:ジャンフランコ・チェッケレ/アダルジーザ:フィオレンツァ・コソット/オロヴェーソ:イヴォ・ヴァンコ/クロティルデ:アンナ・ディ・スタジオ/フラーヴィオ:フランコ・カステルラーナ
★《トゥーランドット》
東京文化会館
指揮:ロブロ・フォン・マタチッチ、オリヴィエロ・デ・ファブリティース
演出:ジュゼッペ・ディ・トマーシ
トゥーランドット:マリオン・リッペルト/カラフ:フラヴィアーノ・ラボー/リュー:リディア・マリンピエトリ/ティムール:プリニオ・クラバッシ 他
★《リゴレット》
東京文化会館
指揮:ロブロ・フォン・マタチッチ
演出:ブルーノ・ノフリ
リゴレット:ピーター・グロッソップ、ワルター・モナケージ/ジルダ:ルイズ・ラッセル/マントヴァ公爵:ルチアーノ・パヴァロッティ/モンテローネ:プリニオ・クラバッシ/スパラフチレ:ルッジェーロ・ライモンディ、イヴォ・ヴィンコ/マッダレーナ:アンナ・ディ・スタジオ/ジョバンナ:アンナ・ディ・スタジオ 他
★《ラ・ファヴォリータ》
東京文化会館
指揮:オリヴィエロ・デ・ファブリティース
演出:ブルーノ・ノフリ
フェルナンド:アルフレード・クラウス/レオノーラ:フィオレンツァ・コソット/バルダッサーレ:ルッジェーロ・ライモンディ/アルフォンソ:セスト・ブルスカンティーニ/ドン・ガスパロ:アウグスト・ペドゥローニ/イネス:マリーサ・ゾッティ
という内容で、すでにNHK交響楽団に登場していたマタチッチが2演目で指揮しています。ただし、リゴレットを振るのは初めてだったらしく、途中で家族の病気を理由に4公演をキャンセルして帰国しています。リゴレットではパヴァロッティが登場していたんですなぁ。
ということで、見どころ聞きどころを特集しています。
で、もう一つの特集が当時の話題盤の演奏比較でした。ここで取り上げられているのが、
★モーツァルト後期交響曲集---寺西春雄
★ストラヴィンスキー/春の祭典---佐野光司
★チャイコフスキー交響曲第4番---西村弘治
★バッハ/ブランデンブルク協奏曲---佐藤章
★ヴィヴァルディ/四季---石井宏
という内容です。ただし、記事としては文字の羅列だけの非常に読みにくいもので、記事を追っていかないとどんな演奏を比較しているのかさっぱりわからないものです。
最初のモーツァルトはカラヤンがEMIに録音した3枚組のアルバムセットとカザルスがマールボロ音楽祭で録音したセットを取り上げています。レギュラーの月評では担当の村田武雄氏はどちらも推薦盤にあげています。吉田秀雄氏はこのカラヤンのレガートたっぷりのモーツァルトを絶賛していましたが、この特集の筆者はさらに前年に発売されているベームの演奏も比較の対象として取り扱っています。
まさに三者三様です。カラヤンとベームは同じベルリンフィルなのにアプローチが全く違います。カザルスのモーツァルトはアクセントが独自で音は悪いのですが、なぜか引き込まれます。
ストラヴィンスキーの「春の祭典」はメータ/ロスフィルとブレーズ/クリーヴランドを主に比較しています。ブーレーズは最初のフランス国立管とのものも合わせて取り上げていますが、特集の筆者は意に反して、ブーレーズの演奏をベタ誉めしています。まあ、今となってはクリーヴランドとの録音はさらに1991年に再録していますから、この1969年盤も霞んでいますけどね。
バレンボイムは一時期CBSにニューヨークフィルを振って録音しています。その中の一枚がここで取り上げられているチャイコフスキーの交響曲第4番です。ここではそのバレンボイムと同時期に小澤征爾がパリ管と録音したレコードを比較対象としています。これは小沢のパリ管デビュー盤で、非常に遅いテンポで開始していてバレンボイムの解釈とは好対照をなしています。ただし、どちらの演奏も今はほとんど顧みられることはありませんな。
バッハのブランデンブルクはブリテン、リヒター、そしてカザルスのお演奏を取り上げています。この号の巻頭言で村田氏もこの演奏を取り上げていて、録音会場のオールドバラ音楽際の主会場モールティング・コンサートホールは元々はモルトを醸造する工場の後に改装して作られたホールで木質系のレンガを使った豊かな響きが特徴ということです。そのホールトーンを生かしたデッカの録音を賞賛しています。記事の筆者はそういうことには触れず、イギリス室内管弦楽団の自発的な演奏を褒め、リヒター盤では演奏者は豪華なのですが、どうしても低音楽器の響きを強調した録音になっていて、バランスが悪いとの指摘も。カザルスに及んではマールボロのメンバーで演奏しているため、チェンバロはピアノに置き換えられているなどオリジナリティは無視されています。まあ、カザルスの解釈を聴く録音とでもいうべきものなのでしょう。
ヴィヴァルディの四季はイ・ムジチの演奏がこの頃までに40万枚を売り上げる大ベストセラーになっています。もちろんアーヨ盤です。ここではそれに加えて、ミケルッチ盤、マリナー盤、オーリアコンブ盤を取り上げています。オーリアコンブ/トゥールーズ室内管はこのころ来日していますのでご祝儀的に取り上げられているのでしょう。記事の中ではアーヨ盤とマリナー盤を比較して取り上げ、50年台後半と60年台後半の解釈の違いを世代間の感性の違いで捉えています。
今となってはどれも現代楽器で演奏された四季で、古楽器で演奏する四季とはずいぶんイメージがことなるのも事実です。まあ、古き良き時代の平和な演奏比較としておきましょうか。
続きます。