禁裏付雅帳(3)
崩 落
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
朝廷の弱みを探れ。老中松平定信の密命を帯び、京に赴任した東城鷹矢。禁裏付として公家を監察し隙を窺うが、政争を生業にする彼らは一筋縄ではいかず、任務は困難を極めた。一方、幕府の不穏な動きを察知した大納言二条治孝は、下級公家の娘・温子(あつこ)を鷹矢のもとに送り込み籠絡しようと目論む。主導権を握るのは幕府か朝廷か。両者の暗闘が激化する中、鷹矢に新たな刺客が迫っていた──。---データベース---
題材になっている称号事件の歴史的史実として結果ははっきりしていますが、そこに至る過程をかなり脚色して色々な事件を織り込み、禁裏付とはいえドタバタ劇に仕立て上げているので興味深く読めます。ここでは敵、味方の双方から禁裏付の妻の座を得んがための、愛情のカケラもない女二人が送り込まれるという茶番が演じられます。
まあ、通常は10年が一区切りの禁裏付の役職が2年での交代という異常事態は、老中松平定信の策略からの送り込みということはバレバレで、しかも若い奏者番からの抜擢という設定も意表をついています。まあ、多少剣が使えるということもありますが、頼りになる家臣は一人も連れてくることができないという設定はちょっと無理がありますわなぁ。
ヒロインがなかなか登場しないと思っていたのですが2巻目から登場した公家の娘南條温子が一歩リードしていますが、そこに3巻目では押し掛け許嫁の安藤若年寄の養女弓江が加わり鷹矢の廻りに若い女性が二人登場しました。東条鷹矢は許嫁は双方が認めて初めてなるもので、一方的な押しかけ女房のような弓江には冷たい態度をとります。小説としては面白い展開で、いっそのことなら正妻、側室、と二人を使い分けるなんてだったらこの手の小説では快挙ですがあり得ないでしょうなぁ。
そして、禁裏付の業務と京の権力構造に戸惑い苦労している東城鷹矢に定信の手の者を害しようとして刺客集団が送られます。これで事態は大きく動いていくのですが、続けて読んでいると、禁裏と幕府の相関関係と敵と味方の立ち位置の同じ説明と、刀を交える同じような展開の繰り返しストーリーが進んでいきません。
主人公と同じように禁裏の仕組みと京都所司代、京都東町奉行所との距離感も理解できない設定でスタートしていますから、読み手もそれらの立ち位置を確認しながら読み進めることになります。ただ、初巻では剣術はそこそこ出来たはずが設定を変えたようで情けない対決シーンが繰り広げられるのがちょっと解せない展開です。
ただ、ようやくに登場人物が揃い踏みという感じではこれからの展開が楽しみです。それにしても禁裏の組織は理解しがたい存在です。巻頭に主な登場人物が紹介されていますが、その中の仕丁の土岐という存在がキーポイントになりそうですし、今後の展開に枡屋源左衛門こと伊藤若冲が登場してきますので、面白い展開が期待できそうです。