禁裏付雅帳(2)
戸 惑
著者:上田秀人
出版:徳間書店 徳間時代小説文庫
公家を監察する禁裏付として急遽、京に赴任した東城鷹矢。将軍家斉の父治済の大御所号勅許を得るため朝廷の弱みを探れ―。それが老中松平定信から課せられた密命だった。一方で今上帝は父典仁親王の太上天皇号を求める内意を幕府に示していた。定信の狙いを見破った二条治孝は鷹矢を取り込み、今上帝の意のままに幕府を操ろうと企む。朝幕の狭間で立ちすくむ鷹矢。巧妙な罠が忍び寄る。
実質この巻から表題の「禁裏付」の仕事が始まります。主人公が京に着任し、引き継ぎがなされますが、禁裏付が二人いるとは子ここまで読んで初めて知りました。交代するのは上の図で「禁裏付」と記された所に住んでいた西畑大炊介光昭とです。この男無能であったようで公家のしきたりを解せず、冷たくあしらわれます。そんな彼から東条は捨て姫のあてがいの話を告げられます。しかし、独り身故にこの話を断ります。何も知らないとはいえ、こういうことにさえ疎い使番あがりのこの東条典膳正鷹矢です。ふつう、係累が少なく若く素直で使いやすいってだけで、海千山千の公卿相手に、世間知らずの若者を送り込むのが訝しく思ってしまいます。こんな展開でこの巻は始まります。
目次
第1章 引き継ぎ
第2章 禁中任務
第3章 捨て姫
第4章 京洛鳴動
第5章 もう一人の女
成長するのは若くなくてはならないってのはあるのでしょうが、まるで初めてのお使いのような展開で、あっちで叱られ、こっちで説教、向こうで一からくどくど説明され、その度ハッとしたりギョッとしたり、女子にやさしくされたらほだされてと、まぁ「戸惑」とはよく言ったもんだというタイトルです。
歴史的には、この話の今のところのメインの主人公の使命は失敗するのが歴史の必然で、そこをフィクションに「出来ない」のが上田作品なので、失敗をどう見せるかってのには期待したいところです。歴史的には最終松平定信が上洛するという結論にはなるのですが、ここではとりあえず気持ちはある。取り敢えず、今回ヒロイン候補が2人も登場してきます。ここがこの巻の見せ場といえば見せ場です。それにしても、定信にしては最初に女のことを手当てしておかなかったことがのちのち痛手になるのではという展開が予想されます。妻の座を狙う女二人の確執がアクセントになるのはちょいと予想外の新機軸と言えるかもしれません。
さて、この京都が舞台ということでの展開の先には京都大火という歴史的事件も絡んでくるでしょうからそこらあたりもきとちんと描かれれば面白いシリーズになりそうな気がします。