パブロ・エラス=カサドによる「第9」
ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調作品125「合唱」
指揮:パブロ・エラス・カサド
演奏:NHK交響楽団
ソプラノ:髙橋絵理
メゾ・ソプラノ:加納悦子
テノール:宮里直樹
バリトン:谷口 伸
合唱:新国立劇場合唱団(合唱指揮:三澤洋史)
2020/12/23、NHKホール
今年のNHKのEテレでの年末の第九は、年末特番の「クラシック名演・名舞台2020」という番組の最後に、それこそ大晦日の10時半過ぎからの放送でした。今年は、元旦から仕事があったので、この番組は録画をセットしてさっさと寝てしまいましたから鑑賞したのは年が明けてからでした。
スペイン出身のパブロ・エラス=カサドがフライブルク・バロック管弦楽団(FBO)を振ったベートーヴェンの第九が、2020年度のレコードアカデミー大賞を獲得しました。今回、日本の評論家諸氏はパブロ・エラス=カサドをえらく評価しています。大賞を受賞した交響曲部門だけでなく管弦楽部門のファリャの《三角帽子》&《恋は魔術師》(マーラー室内管弦楽団)が銅賞を獲得、そして協奏曲部門でもベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番(クリスティアン・ベザイデンホウト(Fp)、FBO)が入りました。ことほど左様な状況だったので、コロナ禍がなかったらさぞかしチケットは争奪戦だったのではないでしょうか。
レコーディングではバロックオーケストラを指揮していましたのでオヘケストラは8型を採用していましたし、コントラバスはヴァイオリンの後ろという古典的な配置です。リハーサル風景の映像を確認すると、独唱はオーケストラの背後ですが、合唱は指揮者の後ろていう配置になっています。
NHK交響楽団の編成は弦楽器は10型で、チェロは中央ながら右手にヴィオラ、その後ろにコントラバスが来る通常の配置で演奏しています。また、楽員の配置がいつもよりゆったりとしているため、オーケストラスペースがかなり前までせり出した配置になっています。もちろん金管、木管セクションはアクリル仕切板が多用されているという感染対策が、また、合唱も人数は40名と絞り込まれていました。録画ではマイクが音を拾っていますから音が薄いとは思いませんが、実演では広いNHKホールでは後方ではかなりこじんまりとした響でしかなかったかと感じます。
現代オーケストラとしてはかなり絞り込んだ編成ですから、演奏は各セクションが明瞭に聴き取れていました。古楽器とは違い現代ピッチで演奏されていますし、元はヴィヴラートをかけています。テンポ設定はレコードと同じでかなり早めの演奏です。まあ、これは最近の傾向でしょうなぁ。演奏時間的には局間を除いて全体は60分強です。
最近のNHK交響楽団は音楽監督のパーヴォ・ヤルヴィをはじめ、フランソワ・グザヴィエ=ロト、ロジャー・ノリントンなどがピリオドタイプの演奏を繰り広げてきましたが、そこに新たな1ページが加わったことになります。
全般的にひじょうに速いテンポで、タメや、揺れなどのルバートはほとんどなく、乱れもなく整然としており、クールで淡泊な演奏です。第1楽章、第2楽章は引き締まった早めのテンポで駆け抜けていきます。昔はちよっと冗長に聴こえた第3楽章も、エラス・カサドの手にかかるとこれもあっという間に駆け抜けていく感じです。よく見ると4番ホルンのソロは3番奏者が吹いています。ここではカサドはナチュラルホルンのようなゲシュトプ双方のような響きを求めたんでしょうなぁ。
編成が小さいので第4楽章の提言のアプローチも重厚さはありません。その第4楽章の「おお友よ」のバリトン独唱もオケのアプローチ同様軽めで、声を張り上げるような歌い方ではなく、合唱も含めてクールな表現に統一されています。新国立劇場合唱団の総勢40名も少数精鋭ゆえもあるが、とにかくがなり立てる要素が皆無で、今年の実演で聴いた山田和樹/愛知室内オーケストラのクリアな演奏が耳によみがえりました。
下は、フライブルグ室内管弦楽団とのレコードアカデミーをとった演奏です。