ベートーヴェン:三重協奏曲/合唱幻想曲
パールマン/ヨーヨー・マ/バレンボイム/ベルリン・フィル
曲目/ベートーヴェン
Triple Concerto For Piano, Violin, And Cello In C Major, Op. 56
1. Allegro 17:00
2.Largo 5:37
3. Rondo Alla Polacca 12:44
Piano Concerto In E Flat Major, WoO 4*
4. Allegro Moderato 9:29
5. Larghetto 6:31
6. Rondo: Allegretto 7:17
Fantasia For Piano, Chorus And Orchestra In C Minor, Op. 80**
7.Adagio 3:33
8.Finale 15:53
指揮、ピアノ/ダニエル・バレンボイム
ヴァイオリン/イツァーク・パールマン
チェロ/ヨー・ヨー・マ
演奏/ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
P:ジョン・フレーザー
E:ジョン・カーランダー
録音/1995/02/15,16 フィルハーモニー、ベルリン
ピアノ/ロナルド・ブラウティハム
指揮/アンドルー・パロット
演奏/ノールショピング交響楽団
P:フレイドマン・エンゲルブレッヒ
E:マイケル・ブラマン
録音/2008/10、ルイ・デ・ゲール・コンサートホール、ノールショピング*
ピアノ/ピエール=ロラン・エマール
指揮/ニコラウス・アーノンクール
P:インゴ・ペトリィ
E:アンドレアス・ルージュ
演奏/ヨーロッパ室内管弦楽団、アルノルト・シェーンベルク合唱団
録音/1993/06/7-8、グラーツ**
これはワーナーから発売されている「ベートーヴェン作品全集2020」に含まれるアルバムです。今回は全てデザインが統一されたジャケットに収録されていて、
トリプルコンチェルトはオリジナルアルバムも別に所有していますが、そちらはトリプル協奏曲と合唱幻想曲のみの組み合わせです。この全集盤のほうは、それに習作のピアノ協奏曲第0番が追加で収録されています。さらに、合唱幻想曲はアーノンクール盤に変更されていると言うことで充実度はこちらの方がはるかに上です。まさに、全集ならではの組み合わせでしょう。
冒頭収録されているトリプル協奏曲はビデオでも収録されていて初出当時はレーザーディスクでも発売されていた記憶があります。バレンボイムは最近ではムター、ヨーヨーマと組んだ録音も発売されていますからやや影が薄くなっている部分がありますが、こちらの方はベルリンフィルがバックということではサウンド的には充実しています。映像で確認するとコンマスは当時は安永徹氏でフルートにはエマニュエル・パユ、オーボエはシュレンベルガーの姿が確認できます。
1990年代の前半はベルリンの壁の崩壊からスタートしていますから全体に平和ムードが漂っていて、古碑の演奏会もオールベートーヴェンのプログラムが組まれていました。そして、何よりも国際色豊かなメンバーによる演奏ということで新しい形のベートーヴェン像が提示されている演奏といってもいいでしょう。パールマンはイスラエル出身、バレンボイムはアルゼンチン生まれのユダヤ人、そしてヨー・ヨー・マは中国系のアメリカ人です。この曲の名盤と言われるカラヤン盤は重厚な響きで非常にドイツ的な演奏ですが、ここで聴かれるトリプル協奏曲はそういうナショナリズムを排したある意味ユニヴァーサル的なベートーヴェン像を打ち出した演奏というものになっていると思います。
この演奏に当たって、「ベートーヴェンの音楽は普遍的です。世界中のどこにいようと、彼の音楽はあらゆる人々に語りかけてくるのです」とダニエル・バレンボイムは述べています。
ヨーヨーにとってこのトリプルコンチェルトは2度目のレコーディングになります。ただ今回のヴィオリン奏者がパールマンであることに注目してほしい。そしてピアノがバレンボエム。パールマンとバレンボエムは今は亡きデュプレと沢山の演奏活動をしていました。その二人とヨーヨーがデュプレの愛用していたダビドフで共演しています。映像を確認するとヨー・ヨー魔がパールマンを意識しながら、デュプレの魂をダビドフに込めて演奏している様が観て取れます。ある意味同世代の仲間である三人の演奏が一つになって音の世界が無限に広がります。これは映像付きのビデオで鑑賞した方がさらに感動を呼ぶ演奏でしょう。
ニコニコ動画ですから会員でないと見えないかも----
オケがとても良く鳴っているし、バレンボイムのピアノがいつもは予定調和的な安全運転を狙う平板で常識的でつまらない演奏とは違うのが確認できます。特に楽章の最後、ヴァイオリンやチェロと丁々発止と掛け合いながら盛り上がっていくあたり、手に汗握るテンポと緊張感は聴きものです。
オーケストラは超一流で、それで充分とばかりにスーパー・オーケストラはコンマスの安永徹氏を中心に見事なアンサンブルで三人をサポートしています。こういう演奏ではコンマスの果たす役割は大きいでしょうなぁ。2つの楽器のための協奏曲は数々あれど、3つの独奏楽器を伴った協奏曲はそうそうあるものではありません。この曲はベートーヴェンの中でも特に好きな作品で興味深い演奏があれば次々と手に入れています。多分この分野でもベートーヴェンは先駆者として大きな足跡を残した作品と言えるでしょう。まるで大きな室内楽のようにも感じられる演奏です。
さて、2曲目には通称ピアノ協奏曲第0番と呼ばれるベートーヴェン13歳の時の作品が収録されています。この作品ピアノパートのみが残されていて、オーケストレーションには色々な版が存在しますが、ここではオランダのピアニストのロナルド・ブラウティハムのオーケストレーションによる版が採用されています。音源もワーナーによるものではなくBISのものを使用していて、彼自身の演奏で収録されています。作品的にはチェンバロで演奏された時期のもので、出身のボンで作曲されていますから初期のクリスチャン・バッハの影響を受けていると考えられています。レコード時代にはフィリップスからヘス版で演奏されたリディア・グリフトウーヴナの演奏を聴いていますが、この演奏はかなり。ピアノパートに手を加えています。そういう意味ではちょいと毛色が違うのでしょうが、かなり面白い演奏で、音楽的にはこのロナルド・ブラウティハムの演奏は楽しめます。もともとSACDで発売されていたものですから音は無茶苦茶新鮮にクリアに響きます。ある意味、モーツァルトの初期の作品かと思わずにはいられない響きを感じることができます。第3楽章など特にそんな感じがします。どうもこの音源は注目されたようで、ユニヴァーサル系のベートーヴェン全集にも採用されています。
最後は合唱幻想曲です。この曲もベートーヴェンの作品の中ではお気に入りの作品です。収録されているのはピエール=ロラン・エマールとニコラウス・アーノンクーのコンビニよる演奏です。ベートーヴェンの交響曲全集をアーノンクールはヨーロッパ室内管弦楽団とのコンビで残していますが、スタイルとしてはトランペットのみナチュラル管を用い、あとは普通のモダン楽器のオケでの演奏となっています。元々の解説には音色のバランスを考えてこういう選択になったというようなことが書かれていましたが、1990年代にはピリオド楽器を使った大きな流れがありましたし、一時期はNHK交響楽団も編成を絞った室内楽的編成で演奏していた時期もありました。そういう潮流の中でのアーノンクール的な一つの回答がこういう形になったのでしょう。演奏は現代楽器ですが、ヴィヴラートをつけない双方はその後一つの流れになっています。交響曲全集とともにピアノ協奏曲全集、さらにはこの合唱幻想曲を一つのフォーマットでまとめたアーノンクールの解釈は評価されてもいいものでしょう。実演で聴いたマーラー室内管弦楽団もベートーヴェンの演奏では同じスタイルをとっていました。
ピアノはスタインウェイを使っての録音であったようですが、エッジの効いたアーノンクールのスタイルとよく調和したスタイリッシュな演奏でなかなかの名演です。
ワーナーの全紙ュゥは手始めにこの一枚から聴き始めましたが、ほとんどが道の演奏なので今後が楽しみです。