オタクと家電はつかいよう
ミヤタ電器店の事件簿
著者:田中静人
出版:宝島社 宝島文庫
「うちの社長は笑いません。ですが、お客さまの笑顔のために努力しています」という求人広告に惹かれ、「ミヤタ電器店」に転職した森野美優。人の気持ちは読めないが、家電に詳しい店長の宮田とともに「なんでも対応」をポリシーに、家電トラブルに隠された人々の想いや悩みを次々と解き明かしていく。一風変わった仕事にやりがいを感じる美優だったが、彼女の周辺で奇妙な事が起き始め…。---データベース---
学生時代に地元の小さな電気店でバイトをしていた人間として、なんとなく興味をそそられるタイトルなので手に取ってみました。多分その当時よりも、地元密着型の街の電気店は高齢化世代の拡大とともに重宝されているのではないでしょうか。大都市ではケーブルテレビの普及や光ネット回線の普及でテレビアンテナを立てる人は減っているでしょうが田舎へ行けばアンテナの需要は必須で仕様。バイト時代には1日に何件もアンテナを建てに回ったものです。
仕事を辞めて地元の横須賀の衣笠に戻ってきて森野美優は、 「うちの店長は笑いません。ですが、お客様の笑顔のために努力しています」にひかれてミヤタ電機店に就職することに家電を売るだけではなく「なんでも対応」でお客様の問題を解決していくなかで、トラウマで笑えなくなっていた美優は少しづつみんなに打ち解けていくのですが、美優の部屋で起こった事件がよく理解できていないところにギャップがあります。以下の短編短編5編で構成されています。
1 なぜ、頑なに新品のルータをほしがるのか。
2 なぜ、空気清浄機の説明を拒むのか。
3 なぜ、彼女は悩みを打ち明けなかったのか。
4 なぜ、盛り塩で故障が直ったのか。
5 誰が美優を見守っていたのか。
- 一見ほのぼのとした商店街の端っこにあるごく普通の宮田電気の日常が描かれますが、その幕間で怪しげな主人公を見守る人物が蠢きます。サブタイトルにあるようにこれは事件簿ということで推理小説になっています。各章でそれらしき人物が出てきますが果たして正体は誰か、あれこれ想像し行間を読み込みちょっとした違和感に気づき検証する楽しみ方が出来ると思います。
- 数々の家電が登場します。小生なんか、街中の小さな電気屋さんとは今ではほとんど縁がありません。何しろ財布の中には家電量販店のポイントカードがひしめいていますし、ちょっとした仕様品ならネット通販で買ってしまいます。
- この小説では、当たり前ですが家電は便利な商品として強調されます。ただ、その使い方を十分理解しているかというと多機能なだけに間違った使い方をしている側面があるのも確かなことで、それが事件を引き起こします。ここでは空気清浄機や食洗機の使い方がポイントとして登場しています。その知られていない点を使って謎解き(トラブル解決)を行う店主と転職してきた主人公がそれぞれの持ち味を生かしてお店の副業「お悩み相談」を行っていきます。特に空気清浄機に今流行りのウォーターサーバー用の水を使って空気清浄機を使うととんでもないことになるなんてこの小説を読むまで知りませんでした。便利な家電でも使い方を間違えると大変なことになることを考えさせられました。
- 冒頭でルーターが登場します。我が家は小さい家屋なので10年ほど前のルーターでも十分現役で活躍してくれていますが、こういう問題もあるのだなぁと実感してしまいます。さらには主人公の森野美優も結構最近の機器を使いこなしているのですが、登場人物はさらにその上をいく最新知識を駆使してネット家電を使いこなしているのに驚きです。
- そのひとりで主人公の母親が出てきますが、その行動は異常に思えます。一人娘が心配なのはわかりますが、娘よりも最新機器を使いこなしているのにはびっくりです。まあ、過去の出来事を考えれば一概に非難できません。今回は母娘とも一応納得した形ですが、母親の抱えるものをなんとかして上げないと(まぁこれは電気屋さん守備範囲ではありませんが)この事件は未解決だと思います。
- 主人公も、昔の彼の声をスピーカーから未だに再生させているというちょっと変わり者といえば変わり者ですし、家電店の店主もオタク度は非常に高いので、まあ、この小説はそんなオタク度の高い人にはもってこいの小説でしょう。
- この小説シリーズ化される要素は多分にあります。楽しみです。